前回は、優柔不断で自信のない上司を厳しく糾弾してしまい、うまく自分の主張を通せずに終わった部下のケースを紹介しました。それに対して今回紹介するのは、優柔不断で自信のない上司でも自分のペースに引き込み、うまくコーチングアップをして自分の主張を通す部下の話です。前回の部下とは何が違い、なぜ上司をコーチングアップできるのか、実際に見ていくことにしましょう。

自分のペースに引き込みながら話を進める

 バイオテクノロジーの研究所で研究員として働く伊藤さんは、現在、あるプロジェクトの計画を担当しています。企画書はすでに研究所の渡辺所長のもとに届けられていますが、渡辺所長の決裁がなかなか下りません。そのため、伊藤さんは何度か、直接、渡辺所長に会って交渉しています。


伊藤「所長、今よろしいですか」

渡辺「あぁ、伊藤くんか、どうぞどうぞ」

伊藤「何度も貴重なお時間にお邪魔して、申し訳ありません。でも、所長のお話を伺うことで、自分の考えを整理することができるんです」

渡辺「そう言ってくれると、私もうれしいね」

伊藤「実は、先日、見ていただいた企画の件なんですが、あのあと、指摘していただいた点を、S先生とE先生、K先生に聞いてきたんですが、そのヒアリングの結果がここにまとめてあります」

(ヒアリングの成果を表にまとめた一枚の紙を、渡辺所長に見せる)

渡辺「ほう。これを見ると、皆さん、結構好意的な評価をしていますね」

伊藤「ええ、そうなんです。これまで所長が手がけていらっしゃったプロジェクトのなかで、理事の先生方から高いご評価をいただいているものには、同じような特徴があるんです。この手のやつは、これまでの理事会ではおおむねスムーズに通っているので、今回の企画もいけると思うんです」

渡辺「それはよく調べてくれましたね」

伊藤「5月の理事会にかけていただけると、大変ありがたいんですけど、もしご承認いただけるなら、説明の際に使うパワーポイントの資料を用意してきましたので、お時間のあるときに見ていただけないでしょうか」

渡辺「手回しがいいですね。見させてもらいますよ」

伊藤「ありがとうございます。所長に見ていただけると鬼に金棒です。これが理事会で承認されたら、所長と連名で学会に報告させていただいてもよろしいですよね」