財務省、菅大臣の洗脳を完了か

 ここのところ、菅直人財務大臣が、増税に積極的だ。「増税しても歳出増で仕事や雇用が増えれば、景気に役立つ」といった発言を繰り返している。「財政制度等審議会」(財務相の諮問機関、会長・吉川洋東大教授)にも検討を要請したと。

 菅氏は、財務大臣就任時には、当面1年程度は増税の議論ではなく、歳出の削減に取り組む姿勢を示していたが、3月に消費税率の引き上げについて「議論するのはよい」と態度を軟化させ、最近は、増税しても、財政支出の使い途が正しければ、景気にプラスになると言い出した。

 財務省は、単純化して言えば、たくさん税金を取って、たくさんの財政支出に関わることが出来れば、権限を大きく持つことが出来る官庁だ。但し、財政支出は今年1年だけ出来ればいいというのではない点が民間人の感覚からすると、少し分かりにくい。特に天下りのコンテクストにおいては、「将来の支出に関わることが出来る」という継続性が権限の源泉だから、将来の支出のための財源を確保することが大切なのだ。従って、「選挙に落ちたらタダの人」である政治家よりも、財政の継続性には重きを置く。この点は、悪いことばかりではなく、いわば「当面の票をカネで買いたい」利害を持つ政治家に対して一定の歯止めを掛ける効果もある。

 しかし、多少、回復傾向にあるとはいえ、金融危機を契機に大きく需要が落ち込み、しかも、デフレの状態にある日本の経済状況で、増税を行うことがいいのかと考えると、危うさを感じずにはいられない。

 財務省の官僚が、積極的に不景気を望むということはないのだろう。しかし、彼らは雇用が法的に保証されているし、民間人が大いに稼ぐ好況時よりも不況時の方が相対的には待遇面で勝るようになるので、精神的には、民間ほど不況を嫌わない素地がある。

 それでは、菅大臣のインセンティブは何なのか。普通に考えると、民主党としては増税を掲げて参院選を戦うと不利なのだから、増税を牽制するポーズを取る方が良さそうにも思えるが、どのみち首相を決めるのは衆院であると割り切り、鳩山由起夫首相は長持ちしまいと見切るならば、最強の官庁である財務省のバックアップを得る方が得だと考えても不思議はない。それが政治家というものだと決めつける気はないが、菅氏とて、一度は総理大臣になりたいと思っていても不思議はない。

 それにしても、「正しい歳出増」というものがあるとして、これを実行した場合に、その財源分を丸々増税するのと、支出の増分の全部ないし一部を増税しないのとを較べると、後者の方が短期的な景気にはより大きくプラスに働きそうなものだ。