ドイツは中央の大学に各地方の秀才を寄せ集め、さらにその中の成績優秀者をイギリスに留学させたうえで、彼らを官僚に登用した。つまり、学ぶ能力に長けた者を集めて、イギリスのやり方を吸収させ、ドイツ国内に見事なイギリスのコピーをつくり上げたのである。ビスマルクは意識的にこうした戦略をとることで、ドイツの国力を急速に高めていくことに成功した。

これに学んだ日本も、さっそく帝国大学(いまの東京大学)をつくった。各地の秀才を集めるという狙いは的中し、その中でも成績優秀な者たちが役人になるという仕組みがこのときに構築された。
のちに文豪として知られる森鴎外などは、第一大学区医学校(現・東京大学医学部)予科に年齢を2歳ごまかして12歳で入学し、19歳で本科を卒業している。

中国の急成長を支えている根本姿勢

こうしたシステムは、国家が発展途上にあり、明確な模倣の対象を持つときには、きわめて有効に機能する。学ぶ力がある人材ほど優遇される学歴社会には、こうした背景があるのである。したがって現代においても、発展途上にある国家の大半は、依然として学歴社会である(韓国しかり、中国しかり)。

ビスマルクと同じ戦略によって、いまやGDP世界第2位にまで上りつめた国家が存在するのをご存知だろうか。そう、中国である。

戦後の中国というのは、「学ぶ」、より正確には「まねぶ(マネ)」によって国力を高めてきた国家の典型だ。

現代中国が何か新しいものを生み出したか、考えてみてほしい。
ぱっとどんなものが思いつくだろうか?

あれだけの人口を抱えながらも、中華人民共和国国籍のノーベル賞受賞者というのは、文学賞と平和賞を除いた分野だと一人もいなかった(台湾など除く)。先日の屠呦呦(トゥー・ヨウヨウ)氏による医学生理学賞の受賞が、科学分野では初めてのノーベル賞である。

中国の急成長を支えてきたのは、その莫大な人口もさることながら、ITから軍事、コンテンツに至るまで、あらゆるものを徹底的にコピー・模倣しようとする態度である。
ビスマルクが語ったとおり、学ぶべきものがあるうちは、ゼロから考えるというのは賢いやり方ではない。学ぶ姿勢を貫いたほうがはるかに効率的なのである。