創続総合研究所

相続は、やはり「損得勘定」ではなく「心理学」です
~スムーズな農業相続には、コミュニケーションが不可欠

「まさか娘が反発するなんて」

児島 一方、生前一括贈与も含めて、農地に関しては万全な対策を打っていたにもかかわらず、いざ相続になったら揉めてしまった、という例もあります。

 被相続人は80代のお父さん、相続人は奥さんと、息子、娘の3人という案件だったのですが、ここは例外的に後継者である息子さんが研究熱心で、彼の主導の下に、粛々と相続対策を進めました。それに安心したのか、父親は遺言書を残しませんでした。

 ところが、父親が亡くなって相続が始まったら、突然、娘さんから異論が出ました。兄が贈与を受けていた農地の価格が、親の財産の4割以上を占めることを、初めて知ったのがきっかけです。「だったら、私も相応のものをもらいたい」というわけです。

八木 農地は、あくまでも農業を続けるためのものだけど……。

児島 そう頭では分かっても、兄がはるかに多い財産を相続するというのが、感情的に納得できないんです。

 これも徐々に分かってきたことですけど、娘さんには、やっぱり親兄弟に対する「過去のいきさつ」みたいなものがあったようなんですね。その“蓋”が、相続というタイミングで開いてしまった。どんな「過去」なのかは、知る由もありません。

 ともあれ、結局この案件は、申告期限内に遺産分割協議がまとまらず、現在も争っています。農地が生前贈与されていたため、家業の承継自体には基本的に問題ない、というのは不幸中の幸いでした。

「損得」でやろうとすると、失敗を招く

八木 あらためて、農業相続が「争続」にならないために必要なことって、何でしょう?

児島 一般の相続との違いは、広大な農地を農業後継者に確実に引き継がせる必要がある、ということです。そのためには、他の相続人、特に兄弟姉妹の意思の疎通が不可欠なんですね。

八木 農地が分割されてしまったら話にならないし、「お兄ちゃんは、あんなに広い土地をもらったんだから、あとの財産は私たちにちょうだい」では、やっぱりうまくいかない。

児島 そう。後継者が安定した生活を送れなくなってしまうかもしれませんから。

 相続人の理解を得るためには、例えば盆暮れには必ず家族で集まって、「農家を継いでいくとはどういうことか」について、よく話し合っておくことです。そうやってコミュニケーションを密にしながら、家族が一丸となって取り組む気持ちにならないと、農業相続はなかなかうまくいきません。まあ、「言うは易く行うは難し」なんですけどね。

八木 家族間のコミュニケーションの大事さは、すべての相続に通じる教訓だと思います。

児島 これも農業相続に限った話ではないのですけど、そういう話し合いを軽視して、相続を「損得勘定」でやろうとすると、必ずと言っていいほど揉め事に発展します。私は、相続は「損得勘定」ではなく「心理学」だ、と考えているんですよ。相続に関わる人たちが、それぞれどんな思いを抱えているのかを知らないで機械的に進めると、思わぬところから火の手が上がる。逆にそれを理解することで、解決の糸口も見えてくるのです。

 1番目の例では、話し合いを突っぱねていた娘さんに現金を譲ることで、遺産分割協議がまとまりました。遺留分には到底届かない金額でしたが、「振り上げてしまった拳」を下す理由にはなったわけですね。

八木 なるほど、「心理学」という意味がよく分かりました。

児島 われわれ税理士の仕事は、基本は「税務」です。でも、それを完璧にやり遂げるためには、お客さまの気持ちを深く斟酌することが大切だ、と私は思います。そのための専門家としてさらなる精進を続けなければなりません。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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