OECD加盟各国とG20の新興8ヵ国で構成されるBEPS(Base Erosion and Profit Shifting/税源浸食と利益移転)プロジェクトの最終報告書が今年10月にまとまり、国際税務の新たなルールとして注目されている。元国税庁長官でありながら、「日本企業はもっと真剣にタックス・プランニングに取り組むべき。このままでは国際競争力を損なう」と訴えてきた渡辺裕泰・早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授に、日本企業の国際税務に対する取り組みの現状と課題、BEPSプロジェクトの影響などについて話を聞いた。

実効税率の違いはグローバル・
タックス・プランニングの差にあり

――日本企業の国際税務に対する取り組みの現状をどのように見ていますか。

元国税庁長官が日本企業に訴える<br />タックス・プランニングの必要性渡辺裕泰(わたなべ・ひろやす)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。1969年東京大学法学部卒。73年プリンストン大学大学院修了(公共経済学)。69年に大蔵省(現財務省)入省、東京国税局長、関税局長、東京大学教授、国税庁長官を歴任。04年から現職。日本企業数社の社外取締役、社外監査役なども務める。

渡辺(以下略):5年ほど前の少し古いデータですが、日米の国・地方を合わせた法人課税の法定税率は40%(現在、日本は32.11%)で同等であるにもかかわらず、会計上の利益に対する法人税の割合である実効税率を見ると、日系企業は米系多国籍企業に比べて10%以上も高くなっていました。経済界の中には、日本は研究開発費などの損金算入が米国に比べて厳しいからだと主張していた方も以前はおられましたが、現在の実態を見ると、研究開発費控除の税率引き下げ効果は日本の方が大きいくらいです。

 日本企業の実効税率が高い本当の理由は、日系企業の海外子会社にかかる税率が、米系企業のそれより十数%高くなっていることにあります。つまり、日米の実効税率の差はグローバル・タックス・プランニングの差なのです。

 特に、米系企業はタックス・プランニングに熱心で、米国より法定税率が低い欧州の企業と比べても、実効税率は低い傾向にあります。後述しますが、米系多国籍企業のタックス・プランニングはやり過ぎの面があり、国際的な批判を引き起こしてもいるので、同様にやるべきとまでは言いませんが、日本企業はやらな過ぎだと思います。

――なぜ、日系企業ではタックス・プランニングへの取り組みが進まないのでしょう。

 海外子会社にはお金を持たせずに、本社で集中的に管理する米系企業に対し、日系企業は海外子会社に甘いところがあると思います。タックス・プランニングを実行するには、本社で財務・税務を一元的に管理する必要がありますが、その体制が不十分です。