株式レポート
11月16日 11時25分
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設備投資低迷に見るアベノミクスの機能不全 - ストラテジーレポート

内閣府が本日発表した2015年7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比0.2%減、年率換算では0.8%減だった。個人消費には持ち直しが見られたが、設備投資の不振が足を引っ張った。

設備投資が伸びない理由はいくつか考えられるが、日本企業が海外生産体制のシフトを進めているという構造的な要因が大きな背景としてあるだろう。今年の春、内閣府が発表した企業行動に関するアンケート調査によれば、13年度に22.3%だった製造業での海外生産比率は、14年度は22.9%に、19年度は26.2%とさらに高まると見通している。円安が進んでいるにもかかわらず、一向に海外生産比率の上昇に歯止めがかからない。企業が海外生産比率を高める理由は為替レートだけでなく、海外のほうが、需要拡大が見込めるからである。

それにしても企業の投資意欲の無さといったら!東証1部上場企業の内部留保は300兆円を超える。内部留保に課税せよ、というむちゃくちゃな意見が出てくるのも、わかる気がする(無論、本当に「課税」するのはあり得ない話である。ここのところ、後段で再度議論)。

300兆円超の内部留保は、企業が設立されてからずっと積み上げてきた(帳簿上の)金額であり、それと足元のスナップショットの設備投資額を比較する事に意味があるのかという意見もある。「フローとストック」をごっちゃにした議論だ、という批判だ。しかし、企業の経営というものは、常に「フローとストック」を考えて行うもの。上場企業の業績は2期連続で最高益を更新する見込みで、手元資金は約90兆円もある。「フローとストック」両面からして、貯めこんだおカネを存分に使っていないのは事実だろう。


そんななか、安倍首相は2020年にGDPを600兆円にするという。経済財政諮問会議の民間議員は「GDP600兆円を今後5年間程度で実現するには賃金や最低賃金の引き上げへの取り組みが重要だ」と提起、業績が拡大した企業に、ボーナスを含む給与総額の大幅な引き上げを要求した。安倍首相も、「政府の取り組みと歩調を合わせて設備投資や賃上げにつなげてほしい」と語り、企業側に協力を要請した。

しかし、すでに多くの指摘の通り、こんなことは政府が言う筋の話ではない。設備投資や賃上げというのは企業にしてみればコスト増。社会主義の国営企業でもあるまいに、「民事介入」ではないか。無論、この「要求」は法人実効税率の引き下げとセットの話だ。法人税を下げるのだから国内に投資しろというわけだが、それにしたって行き過ぎ(言い過ぎ)感は否めない。意思決定権はあくまで企業にある。しかも、法人税の引き下げにしたって、現在の32.11%から「早期に20%台に下げる道筋を付ける」というだけで、まだ下がっていないばかりか、いつなのかも明確にされていない。こんな状態で、国内で投資を増やせというのはおこがましいのではないか。ところが、当の産業界の反応といえば

<経団連の榊原定征会長は9日の記者会見で、政府から相次ぐ企業の賃金引き上げの要請を巡って「消費の拡大には継続的な賃上げが必要だという認識は、100%共有している」と述べ、経済の好循環実現に協力する姿勢を示した>(11月10日付け日本経済新聞)という。とりあえず、おかみのいうことだから従順な素振りだけ見せておこうということなのだろう。

設備投資や賃上げにカネを使え - 本来、こんなことは政府が言うべき筋の話ではない。では誰が言うべきか?株主である。企業の最終的な利益処分に関する決定権を有するのは株主にほかならない。しかし設備投資や賃上げというのは利益の最終処分のずっと前段階の意思決定だ。問題ない。それを決めるのは<経営の判断>。それが不適切(不十分)だと思えば、経営陣を変えればいい。その権利は株主にある。

こうした議論が必要になること自体、まだまだコーポレートガバナンスが深化していないことのあらわれであろう。アベノミクスの成長戦略は初年度は評価が低かったが2年目の2014年の改定版は投資家の注目を集めた。コーポレートガバナンス強化によって経営者のマインドを変革し、グローバル水準のROEを目指した「日本再興戦略改定2014」である。僕も以下のようにレポートで高く評価した。

<政府が成長戦略で企業の「稼ぐ力」を高めることを標榜し、その仕組みを整える。企業もそれに応えて アクションをとる。こうした官民一体となった日本企業の ROE 向上への姿勢が国内外の機関投資家に 評価されないはずがない。それこそが日本株式市場が堅調地合いを取り戻した背景であると考える。>(2014年6月23日「日本株 堅調さの背景PART2」)

こうした見方は広く投資家に共有されたのだろう。特に外国人投資家の間には、長年裏切られ続けてきた株主重視の企業改革が本格的に始まるとの期待が台頭、2014年後半の上昇相場につながったのだ。

日本企業は変わったか?確かに配当や自社株買いは増えた。しかし、相変わらずおカネを貯めこんで将来のための投資をじゅうぶん行っているとは言い難いのではないか。鳴り物入りで導入された株主と企業の対話であるスチュワードシップ・コードが効力を発揮していないということではないか。というより、株主の側も目先の利益である配当や自社株買いのみを歓迎しているからではないか。いわゆる「ショートターミズム」である。

これが企業の投資が活性化しない理由のひとつだ。「投資」とは読んで字のごとく「資金を投じる=おカネを使う」ということであり、設備にカネをかけるのみならず、賃金を上げるというのは、「人」に投資するということである。そのどちらも企業はしていない。

企業がおカネを使わないのは、投資家からのプレッシャーが弱いということに加えて、もうひとつ要因が指摘できる。日銀のインフレ追求スタンスが減退していることである。

先月末の金融政策決定会合で日銀は、物価上昇率目標の達成時期を先延ばししたにもかかわらず、追加緩和を見送った。会合後の記者会見で黒田総裁は、「物価の基調は着実に改善している」と強調した。

確かに、生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数の上昇率は9月に前年同月比1.2%となり、8月の1.1%から拡大。2013年の異次元緩和導入後の最大の伸び率となった。しかしこれは「日銀版コア」ともいうべき指標だ。オフィシャルな統計としては、①エネルギーを含む総合指数、②その「総合」から天候に左右されて変動の大きい「生鮮食品」を除く総合指数(いわゆる日本の「コア」指数)、③米国等外国で一般的な、「総合」から「食料(酒類を除く)及びエネルギー」を除く総合指数(いわゆる「米国型コア」または「コアコア」)である。

総合指数の前年比上昇率はついに0%になってしまった。「生鮮食品」を除く総合指数(日本の「コア」指数)に至っては8月にマイナスに転じ、9月も水面下のまま。言うまでもなく原油等エネルギー価格下落の影響だ。だから、日銀としてはエネルギーを除く「米国型コア」=「コアコア」を使いたいところだが、そうすると今度は円安で輸入物価上昇を反映して値上がりしている食品類も除かれてしまうため都合が悪い。そこで「生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数」という日銀に都合のよい指数を持ち出してきたわけである。

日銀がインフレ・ターゲットの達成をそれほど急いでいない理由は政治的な配慮だろう。来年の参院選を意識して安倍政権はポピュリズムを強めている。象徴的なものは消費税の軽減税率の議論。学者等専門家がこぞって反対するなか、一見「低所得者=弱者にやさしい」ように見える軽減税率の導入に突き進んでいる。

庶民が物価にナーバスになるなか、(追加緩和によって)「これ以上の円安は望ましくない」という雰囲気が永田町から伝わり、それが日銀の腰を重くしている節がある。

同会見で黒田総裁はこう述べた。「物価だけが上がれば良いわけではない。賃金も上がり企業収益も増えていくという経済全体のバランスが取れた形でないと2%目標を安定的に達成するのは難しい」

実質賃金がポイントだというのは理解できる。しかし、それは卵が先か鶏が先かというような議論だ。賃金は上がるものではない。企業が「上げる」のである。では、どうしたら企業は賃金を上げるだろうか。端的に言えば企業自身が強くインフレ期待を持たなければ賃金を上げるはずがない。

前回の日銀短観発表の翌日に公表された「企業の物価見通し」では、物価や販売価格の伸びが鈍化するとの見通しが鮮明になった。企業の物価見通しの調査は、短観の一環として日銀が昨年の3月調査から始めた。約1万の調査企業に対し、1%刻みで自社の販売価格と物価について1年後、3年後、5年後の見通しを聞き取っている。

9月調査では、物価見通しは全規模全産業で1年後が前回の6月調査から0.2ポイント低下の1.2%上昇に、3年後は0.1ポイント低下の1.4%上昇に、5年後は0.1ポイント低下の1.5%上昇にいずれも下方修正となった。3つの期間全てで下方修正となったのは調査開始以来、初めてだ。この調査結果は、企業が抱く予想インフレ率を把握する数字として日銀が重視しているものである。 

黒田総裁はかねてよりインフレ期待が重要と述べてきた。まさに「物価だけが上がれば良いわけではない」のである。原油価格や為替レートの影響で変動する物価そのものよりも、企業や家計が抱くインフレ期待のほうが、真の意味でのデフレ脱却にはよほど大切である。日銀にはぜひこの点を思い出してほしい。いや、聡明な彼らのことだ。僕ごときに言われるまでもなくわかっているはずである。日銀短観は12月14日に発表される。「企業の物価見通し」の発表は15日だ。その両方とも下振れしていれば - そして、おそらく下振れするだろう - 日銀は17-18日に開く金融政策決定会合で追加緩和に踏み切る公算が高いと考える。

日銀の政策変更は、物価展望レポートをまとめる4月と10月、およびその中間評価を行う1月と7月、麻雀で言えば1-4-7(イースーチー)の筋が基本だが、今回は12月だ。ECB(欧州中央銀行)は12月3日の理事会で追加緩和を決めるだろう。FRBは15-16日のFOMCで利上げに踏み切る観測が高まっている。それらを受けて日銀も12月に動いてくるのではないかと考える。

GDPの主要な内訳である設備投資が伸びないことに象徴されるように、企業がおカネを握りしめて使わない。デフレ脱却どころか、ガチガチのデフレ・マインドに固まったままである。それを解きほぐす政策がアベノミクス3本の矢であったはずだ。大胆な金融緩和であり、昨年の成長戦略でまっさきに挙げた経営者のマインドを変えるべく推進したコーポレートガバナンスの強化、株主と企業の対話を促進する仕組みなどであった。残念ながら現時点で効果がまったく出ていない。政策の方向性は正しい。しかし、機能していないのである。

卵が先か鶏が先かと述べたが、まず企業をはじめ世の中のインフレ期待を再度高めることが、この停滞から脱却する先鞭となるのではないか。

インフレは弱者にとっての税金である、と言われるが、それは違う。ウォーレン・バフェットのような大富豪でさえ「インフレは歴史上、最も重たい税金である」というように誰にとっても税金のようなものである。とくに多額の現金を保有しているひとにとっては最もキツイ税金だ。前段で<内部留保に課税せよ、というむちゃくちゃな意見が出てくるのも、わかる気がする>と述べたのは、そういう趣旨である。

追記(午前10時30分)
パリで起きたテロの悲惨さには胸が痛み、ここに綴る言葉が見当たらない。犠牲になったかたには心から哀悼の意を表したい。
東京市場は、この惨劇を受けて初めて開く主要市場だった。リスク回避的な動きが予期されていたのは当然であったろう。日経平均は大幅続落で始まり、寄り付き直後には344円安まで売られた。ところがどうだろう、そこからじりじりと下げ幅を縮め、午前10時30分現在、160円安程度となっている。これまでのところ 8日連続陽線だ。
テロを受けた市場の動揺に乗じて売り仕掛けで臨んだ向きもあろう。そうした向きの、愚劣な思惑を一掃するような相場の強い意志を感じる。日本株市場は捨てたものではない。

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