チェルノブイリを
一切学んでない日本

白石 私は津田さんの研究発表がこれだけ黙殺されているのは、かなり深刻な状況だと感じています。デング熱や新型インフルエンザでもそうなのですが、日本は通常、過剰なほど社会防衛的な予防措置をとる国ですが、原発だけが例外です。100人のガンを放置しています。津田さんが会見で何度も言っていました。

チェルノブイリのことを、この国は一切学んでない」と。

 私も現地を取材してみて、本当にそう思います。
 チェルノブイリでは、事故後4年目に、ウクライナで小児甲状腺ガンが多発しているという論文が発表されましたが、IAEAが「検査をしすぎによるスクリーニング効果である」と否定しました。
 国際的に因果関係が認められたのはそれから5年後の1996年のことですが、それは、事故後に生まれた子どもたちをスクリーニングした結果、ほとんど甲状腺ガンが見つからなかったためです。
 津田教授は、これらのデータも論文で引用しています。

 いずれにせよ、これからの対策としては、まず医療体制をきちんと整備しないといけません。
 日本は甲状腺ガンの専門医が非常に少なく、また、ヨード治療の施設も欧米より格段に少ないと言われていますから。

広瀬 チェルノブイリ原発事故の調査結果では、青年から、さらに成人に移行してから甲状腺ガンが発症するケースが増えてきました。
 つまり福島県でも、もう事故から5年近くたっているのだから、検査対象を18歳以上に引き上げなくてはなりません。
 それから被曝した人たちをサポートするためにも、日本全国の各地へ避難して散らばった人たちをネットワーク化しなくてはならないでしょう。

白石 そうですね。ウクライナでは、もともと医療費が無料なのですが、原発事故の「被災者」はすべて医薬品が無料となります。
 では、「被災者」をどう把握しているかといえば、事故処理作業員や0.5ミリシーベルト以上の地域に暮らしている人たちすべてを登録するデータベースがあるのです。
 240万人という大規模なデータベースです。日本は急いでそれを見習うべきです。具体化が必要です。

広瀬 どれくらいのお金でデータベースができるでしょうか。福島県民は200万人ですが……。

白石 ウクライナのデータベースは驚くほど安いんです。日本円で、年間3000万円程度です。
 人件費の安さは考慮しなくてはなりませんが、彼らの方法を学べば、日本でもそんなにお金をかけないで、できるのではないかと思います。
 というか、ウクライナも最初はヒロシマ、ナガサキの12万人のデータベースを参考にしました。けれど、ヒロシマ、ナガサキは、すぐそばで原爆に被害にあった「直爆」を中心に研究が行われているため、1990年代に大幅に見直しし、現在のような、低線量被曝の影響を主眼に置いた、大規模なデータベースを確立したのです。
 現状に合わなければ、すぐに方針を見直すという彼らの柔軟さを見習いたいものです。
 政府に期待できないのであれば、民間で取り組むことも視野に入れる必要があると思います。
 たとえば、携帯アプリを開発して、定期的に身体症状などを記録できるようにするとか。裁判になれば、最終的には自覚症状が重要ですから。

広瀬 私もそう思います。
 日本では、福島県の自治体も政府も信用できないので、民間で取り組まなければなりません。
 ただし、プライバシーの個人情報保護は必要ですから、誰もが信頼できる人が中心になって進めたいです。
 弁護士も医師も加わって、信頼できる人が何人か入った機関をつくって、セキュリティーを万全にしてデータを収集する。
 それから、ウクライナのように、サポートの見返りがあると、被害者が申し出しやすいですね。

白石 そう、ウクライナでは登録している人は無料で保養チケットが出るなど、いろいろな特典があって社会保障のひとつになっています。
 データベースに対する信頼は極めて高く、心身の異常を申し出しやすいシステムになっています。

広瀬 それが真の社会保障です。
 そもそも福祉という言葉の原点は、そこにあるですからね。
 ダイヤモンド書籍オンラインの読者の方々には、OurPlanet-TVが発売しているDVD「チェルノブイリ28年目の子どもたち」の最初の版(低線量長期被曝の現場から)と、そのVol.2(いのちと健康を守る現場から)を買って、ぜひ見てほしいと思います。
 ウクライナはロシアとの紛争があって、大統領も交代したので心配だったのですが、チェルノブイリ被災者の救援が続けられていることを知りました。
 必ず、これを見てください。
 ウクライナと比較して、日本がどれほどおそろしいか、という事実がわかります。

白石 広瀬さんがお話しくださったビデオは、実は、インターネット上で無料で視聴できます。ぜひご覧いただきたいです。

チェルノブイリ28年目の子どもたち〜低線量長期被曝の現場から
https://m.youtube.com/watch?v=3hv-5bW17Rs

チェルノブイリ28年目の子どもたち2〜いのちと健康を守る現場からhttps://m.youtube.com/watch?v=3Sxt6sYBa9Q

 ただ、DVDもあるので、そちらを買っていただけると助かります。
 私たちは、普通のマスコミと違い、あらゆることをタブーなく報道するために、企業からの広告は一切受けていません。
 ですから、DVD1枚買っていただくのも、私たちの活動には大切な資金源なのです。

DVD購入ページ
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1901

 しかも、このDVDは1枚2000円で購入すれば、誰でも自由に上映会を開くことができます。有料の上映会でもOKです。
 インターネットが不得意で、きちんとした情報にアクセスしていない家族やお友だちなど、なるべく多くの方に広げていただきたいと思っています。

広瀬 白石さん、ご多忙のところ、3回にわたる対談、貴重なデータの数々、ありがとうございました。これからも、全国の人に貴重な事実を伝えてください。救世主ですから。

日本で甲状腺ガンが<br />激増する理由<br />――白石草×広瀬隆対談【後篇】

(おわり)