一流のコピーライターがつくった名コピーや、お笑い芸人のネタの一部も、こうした「うっかり忘れ」の議論と同一直線上にある。

たとえば丸大ハムの「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」というコピー。これは多くの人が潜在的に頭の中に持っているアイデアを、見事に具現化している。だから、初めてこのコピーを見た人も、何か新しいことを学んだというよりは、「すでに知っていること」を見事に形にされて、思わず共感を覚えてしまうわけだ。

また、芸人のいわゆる「あるあるネタ」というのも同じだろう。たとえば、2003年の流行語大賞にもなった「なんでだろ〜」で一世を風靡したテツandトモの「教室のカーテンに巻きついて遊んでいる奴 なんでだろう?」とか「救急車の音がしたら『ほら、迎えに来たよ』って言う奴 なんでだろう?」というネタ。

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多くの人の頭の片隅には、そういう人がいたという記憶が残っている。だからこそ、こうしたネタを聞くと、多くの人がつい「あるある!」と笑顔になってしまうわけだ。

 

ちなみに、プラトンも『国家』のなかで、魂は転生する前に「忘却の川」の水を口にして、前世の記憶を失うのだと書いている。
古代ギリシャ語の「真理(アレーテイア)」という語はまさに「忘却(レーテー)」に否定辞(ア)を加えたものである。
つまり、真理とは忘却を脱した状態、すなわち思い出すことだというわけだ。