「それでは、これから野球部のミーティングを始めたいと思います。まずは前回決めた通り、『イノベーションと企業家精神』をヒントに野球部の『定義』から決めていきます」
『もしドラ』の中でマネージャーは、初めに野球部の定義を決めていた。それがマネジメントの最初の仕事なのだ。
 それにならって、ここでもまずは「野球部の定義」から決めようということになった。ただし、そこでは『マネジメント』ではなく『イノベーションと企業家精神』を参考にするというのが、彼らの新しい取り組みだった。
「公平さん、どうですか?」
 真実の問いに、公平はちょっと言いにくそうに答えた。
「いや、それが……まだちょっとよく分からなくて」
「あ、私も──」と夢も、聞かれる前に断った。「やっぱり、全然、難しくて……」
 すると真実は、表情を変えることなくこう言った。
「もちろん、この本はすぐに読み下せるようなものじゃないから、それでいいんです。これから何年もかけて、ゆっくりと噛み砕いていく種類のものですから」
 それから、黒板に向かってチョークを握ると、こう言った。
「それじゃ、冒頭の部分から、私が気になった箇所を書き出していきます。まずはここ──」

企業家はイノベーションを行う。イノベーションは企業家に特有の道具である。(七頁)

 真実は、自分が黒板に書きつけたその一文を見ながらこう言った。
「私たちは、マネージャーとしてこの野球部の『企業家』になろうとしています。単なる『経営者』ではなく、新しい価値を生み出していきます。イノベーションは、そのための道具です。イノベーションなくして、新しい価値は生み出せません」
「なるほど……」と、公平が感心しながらそれをノートに書きつけた。夢や、洋子と五月もそれにならった。
 それを見て、真実は続けた。
「では、どうすればイノベーションを行うことができるのか──というのが問題となってくるのですが、それについて、ドラッカーはこう書いています」
 そう言って、今度は『イノベーションと企業家精神』の本を開くと、その箇所を朗読した。

われわれはまだイノベーションの理論を構築していない。しかし、イノベーションの機会をいつ、どこで、いかに体系的に探すべきか、さらには成功の確率と失敗のリスクをいかに判断すべきかについては十分知っている。まだ輪郭だけではあるが、イノベーションの方法を発展させるうえで必要な知識も十分に得ている。(一一頁)

「さらに──」と、真実が続けた。「ドラッカーは、こう結論づけています」

この新しいものを生み出す機会となるものが変化である。イノベーションとは意識的かつ組織的に変化を探すことである。(一一頁)

 すると、公平が尋ねた。
「変化を探す──ってどういうこと?」