ところが翌日、またしても『予期せぬ成功』が起こった。真実が、さらにもう一人、入部希望者を連れてきたのだ。その男子生徒は、名前を木内智明といった。
「よろしくお願いします」とお辞儀した智明は、顔だけを見るとなかなかの二枚目だった。ただ、髪を昭和の映画俳優のように横分けにして、独特の古めかしい雰囲気を漂わせていた。
「ちょっと声をかけてみたら、ぜひやりたいって──」と、真実がばつの悪そうな顔で公平に言った。「彼も、入部してもらっていいですか?」
 それに対し、公平は目を丸くしながらもこう答えた。
「それはもちろんかまわないけど……一体なんと言って誘ったの? どうしてみんなマネージャーになりたがるんだろう? よっぽど強烈な殺し文句でもあるの?」
「いえ、私は別に、何も言ってないんです。ただ……」
「ただ?」
「昨日、洋子から聞いた志望動機が面白くて、それを話したんです。そうしたら彼、興味を持って」
「私?」と洋子が、意表を突かれたような顔で自分を指さした。
 その洋子に頷きながら、真実はこう言った。
「昨日、洋子が言っていた『マネジメントの勉強をしたいけど、高校にはそれをできる場がない』っていうの、あれ、ドラッカーがいうところの『ギャップ』じゃないかって気づいたの」
「ギャップ?」
「そう。『ギャップの存在』というのは、昨日話した、イノベーションを見つけるための第二の機会なの。『イノベーションと企業家精神』にはこうあるわ」

ギャップとは、現実にあるものと、あるべきものとの乖離、あるいは誰もがそうあるべきとしているものとの乖離であり、不一致である。(三三頁)

「──つまり、洋子には『マネジメントの勉強をしたい』という欲求があったにもかかわらず、現実の高校にはそれを学べる場がなかった。これは一つの『ギャップ』だと思ったわけ」
「なるほど、確かに……でも、どうして高校ではマネジメントを教えてくれないんだろう?」
「ドラッカーは、それについてこう言っているわ」

原因はわからないことがある。見当さえつかないことがある。だがそれにもかかわらず、ギャップの存在はイノベーションの機会を示す兆候である。(三三頁)

「──つまり、そうなっている原因はさておき、ギャップの存在そのものがイノベーションのチャンスだって。だから、洋子の欲求そのものが、実はイノベーションの機会だったのよ」