当時の博報堂とBCGの決定的な違い

【藤原】津田さんが鍛えられたのは、もちろん博報堂の経験もあるかもしれないけど、やっぱりボスコン(ボストン コンサルティング グループ/BCG)なの?

「700個のケーキ」を「800人の避難民」に届ける方法を考える津田久資(つだ ひさし)
東京大学法学部、および、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院(MBA)卒業。
博報堂、ボストン コンサルティング グループなどで一貫して新商品開発、ブランディングを含むマーケティング戦略の立案・実行にあたる。
現在、AUGUST-A株式会社代表として、各社のコンサルティング業務に従事。また、アカデミーヒルズや大手企業内の研修において、論理思考・戦略思考の講座を多数担当。表層的なツール解説に終始することなく、ごくシンプルな言葉で思考の本質に迫る研修スタイルに定評があり、のべ1万人以上の指導実績を持つ。
著書に『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』『世界一わかりやすいロジカルシンキングの授業』などがある。

【津田】意外かもしれませんが、まず当時の博報堂はどちらかというと「学ぶ」「正解主義」の世界でした。日本の広告会社ってもともと、外国からメソッドを持ってきていますよね。そうすると、けっこう他人がつくったフレームワークを学んでいさえすれば何とかなる部分が多いんですよ。

【藤原】舶来物の考え方をね。

【津田】ええ。一方、ごく一部の優秀なコピーライターというのはやっぱりいて、彼らは自分でフレームワークをつくっていましたね。ツリーをきれいに描いて100本くらいのコピーを簡単に出してくる。ただ、大多数は海外から持ってきたフレームに当てはめて、それらしいことを言っているような状況でした。いまもそうなのかはわかりませんが…。

一方、BCGは違いました。BCG発のフレームワークって、当時もけっこうたくさんあったんですが、彼らはほとんどそんなもの使わないわけですよ。たとえば「PPM(product portfolio management:製品ポートフォリオマネジメント)」なんていうフレームワークがありますけど、BCGの内部だと「なんでそもそも市場成長率とマーケット相対シェアの組み合わせて戦略を決められるの?」みたいな話になって……。

【藤原】「なんでこの2軸なんだ、勝手に決めてるだけじゃないか?」と(笑)。

【津田】そう、だからじつは誰も使っていなかったんですよ。
そのあたりのことって、実はビジネススクールでは考えられないまま、頭ごなしに「そういうもの」として教えられていますよね。PPMのようなフレームワークをそのまま使うのは全体の80%くらいだとした場合、博報堂だったらそれでなんとかなったんですけど、その80%の人でいる限り、BCGという会社ではやっていけないんで……。

【藤原】なるほど、そうなんだ。ちなみに、じつは僕、東大にいたときには、まずBCGに入ろうとしてたんですよ。

【津田】えっ、そうなんですか!?

「700個のケーキ」を「800人の避難民」に届ける方法を考える「当時、リクルートがなければ、BCGに行きたかった」と藤原和博さん。

【藤原】もしもリクルートがなければ僕もBCGに行ってたんじゃないかなーと思いますね。マッキンゼーはまだ当時、新卒採用やってなかったですしね。

【津田】へえ~、そうだったんですね。僕は博報堂にいたころから、ビジネス理論みたいなものに対して「なんかおかしいな」っていう思いがあったんです。
その当時、たまたまマッキンゼーのプロジェクトに入る機会があって……。メンバーの中にはハーバード・ビジネススクールとかINSEADの出身者がいたりしましたから、会議では最先端の経営理論みたいなのがバンバン出てくると思って身構えてたんですよ。

【藤原】そんなのばっかりくるだろうな、と。舶来のすごいのが。

【津田】ところがマッキンゼーの人って、全然その手の話をしないんですよね。それで「やっぱり自分がビジネス理論に対して抱いてた違和感って、真っ当なものだったんだな」と実感しました。

【藤原】ああ、そうなんだ。

【津田】いまのビジネス教育を見ると、「それはPPMですね、以上」で結論づけちゃうような傾向にある。言っちゃ悪いですけど「なんちゃってMBA」みたいな人が増えている感じがして、あまりよくない傾向だと思いますね。