芸人を辞めないと、
発言できないなんておかしい!

マコ だから、原発事故の取材を始めるときに、ケンちゃんに言ったんです。

吉本を辞めることになるかもしれない。ヘタしたら芸人も続けられない。ごめんね、ケンちゃん、でも私、いま取材したいの」って。

 するとケンちゃんが、

いいよ。芸人を辞めることになっても、ついていくから

 と言ってくれて(涙)。
 次の瞬間、ケンちゃんが本屋さんに行って、農業を始める本と、ネットショップを立ち上げる本を買ってきたのです。早い、早い。早すぎるわ!(笑)

広瀬 農業をやっても、ジャーナリストをしてもいいけど、おしどりマコちゃん・ケンちゃんは、芸人を辞めたら絶対ダメだよ! 芸人を続けるからこそ、二人の才能が生き続けるんだ。

マコ そうですね。自分たちは劇場の楽屋で、あの状況がおかしいと思っている先輩たちがたくさんいることを知っていたので、吉本を辞める前例になりたくなかったの。だから、仕事がゼロになっても、吉本に居続けてやろうと思いました。辞めないと、社会のことや原発のことを考えられないというのが、私は一番イヤだと思ってたの。

広瀬 しかし、尋ねにくいけれど、会社との関係は、その後大丈夫ですか?

マコ あるとき「AERA」の記者が、吉本を通して、私が取材している人を紹介してほしいと言ってきたのです。
 私は、「その記者さんと一度お話をさせてもらえますか」とマネージャーに言ったのですが、「とにかく教えろ、調べるぞ」みたいな話になってきたので、これはちょっと面倒くさいことになったなと思って。吉本に「辞めさせてください」と伝えました。
 するとマネージメントのトップが、
「いま、その理由でおしどりが辞めると、全面的にうちが悪いことになるから、保留にしてくれ」
 ということになり、そのあと体制を変えてくれて、マネージャーも変わって、すごく動きやすくなりました。
 誰も私たちのマネージャーはやりたがらないと思っていたら、たまたま大学院で「戦前のジャーナリズム」という修士論文を書いた変わり種の人がいて、引き受けてくれました。それからは、取材についてはマネージャーに報告すれば黙認です。

広瀬 でも普通の舞台では、原発の話はしないというか、できないでしょうね。

マコ 劇場ではあまりしないのですが、相方のケンちゃんは、お客さんのリクエストに答えて針金細工をつくる芸人なので、ときどき「原発つくって」と言われます。

広瀬 原発の何をつくるのですか?

マコ 原子力のマークとか、沸騰水型軽水炉をリアルにつくったりとか。ほら、このイヤリングも。

広瀬 ほうっ、ケンちゃんは、芸術家だけれど、細工の名人だね。
 しかし、芸人さんは、テレビでは原発の話はタブーでしょう?
『笑点』で三遊亭円楽が、ときどきポロッと「再稼働やめろ」というようなことを言ってくれるので、うれしいけれど。

芸人のわたしが、<br />舞台よりも「東電本店」に<br />通った理由<br />――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート1】

マコ たまたまかもしれませんけど、2012年の秋に、その円楽師匠の事務所のツアーで北海道を回らせてもらって、ありがたかったです。ケーシー高峰先生と、おしどりで。
 ケーシー先生はいま、福島県のいわきにお住まいで、2011年にテレビに出演されたとき、白衣をバッサバッサして、「放射能の産地からきました。みなさんに放射能をプレゼントします」と言って、それがテレビで流れました。

広瀬 それはすごいね。ケーシー高峰はもう80歳を超えているけれど、うまいですね。私は大ファンです。

芸人のわたしが、<br />舞台よりも「東電本店」に<br />通った理由<br />――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート1】

マコ はい。今年81歳です。「ケーシー先生には誰も注意できなかった」ということらしいですけど、テレビだから衝撃でしたよ。

広瀬 芸能界の大変な、そして貴重な裏話を聞かせていただきました。芸能界にも希望がありますね。

 次回は、「福島県「県民健康調査検討委員会」を牛耳る“二枚舌座長”星北斗の罪」についてお話ししましょう。

(つづく)