岩崎 本質的には、みなみという個人ではなく「女子高生」という立場が物語の肝になるからです。この「女子高生」を捨てることのほうが、ずっと危険だと判断しました。

経営学者は『もしイノ』をどう読むか?<br />世界最先端の組織論との共通点<br />

入山 おもしろい! 少し前に『新版 ブルーオーシャン戦略』(W・チャン・キム著 レネ・モボルニュ著/ダイヤモンド社)の監訳をしたのですが、ブルーオーシャンというのは結局、イノベーションを起こすためのひとつのフレームです。そのブルーオーシャンを見つけるためにいちばん大事なのは何かといえば、「捨てる」ことなんですよ。

岩崎 ええ、ええ。

入山 リクルートさんの「受験サプリ」というアプリをご存知ですか? 超優秀な講師だけを集めて授業をしてもらい、その動画を全国に配信している教育サービスです。これが大成功しているのですが、では、受験サプリは何を捨てたか? 教室です。普通に考えれば、授業を全国展開するためには教室が必要ですよね。でも、そうすると講師の質が担保できません。「講師と教室、どちらを捨てるか」という選択で、教室を選んだわけです。岩崎さんにとって、「(『もしドラ』の主人公の)みなみ」ではなく「女子高生」が、受験サプリの「講師」だったんですね。

岩崎 おっしゃるとおりですね。ですので、どちらを捨てるか選択する局面においては、本質を見極めることが大切になってくると思います。今回は、「女子高生」を本質ととらえ、前作の主人公である「みなみ」をあえて捨てた。その結果、第1作を引きずらない、でもなんとなく存在が香ってくる、くらいのバランスになりましたが、それくらいが適切だったのでしょう。実際、読まれた方々はみなさん、前作よりおもしろいと言ってくださいます。それは、前作の本質を見極め、そこで重要なものを残し不必要なものを捨てることができた結果かなと。

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入山 その選択には大賛成です。そもそも、みなみを主人公にした続編にしたら、シリーズものにありがちなインフレ状態になっちゃいますよね。さらに大成功させてメジャーリーグに行かせるか、立ち上げた事業を一度ダメにさせて復活させるか……(笑)。

岩崎 あはは、確かにそうですね。

入山 そんな不幸が起こらなかったのも、岩崎さんの力量ですね。いや、今日はほんとうに勉強になりました。ありがとうございました!