「幸せ食堂」繁盛記
【第十七回】 2015年12月14日 野地秩嘉

汁物で〆る酒飲みなら、感涙。
“ラーメンの旨い居酒屋”、金町にあり。
アイデアに富んだ料理も実に楽しい

「うちはうどん屋ではない」

 金町製麺は開業してから5年経った。

「当初は、うどん屋さんですかとよく聞かれました。丸亀製麺と間違えたんでしょうね。ですから、いつもこう答えていました。『違います、うちは居酒屋で、ラーメンも出してます』」

 店主の長尾優介が言うように、同店は鮮魚の刺身、たこワサビ、トマトのバジルソースとアンチョビ、豚ロースと玉ねぎのスタミナ炒め、豚バラチャーシューの炙りなどが並ぶ居酒屋だ。つまみの値段はいずれも390円。漬け物、ポテトサラダ、枝豆などは300円。

 ただ「製麺」と店名に付けているのは伊達ではない。長尾は同店で出している中華そばの麺を小麦粉から手打ちしている。

 彼は高校を出てから武蔵野調理師学校へ進んだ。調理師学校を出た後、イタリアンレストラン、居酒屋、和食店で働いた。その後、金町製麺を経営するラーメン店「七彩」の社員となる。この経歴を見ればわかるように、金町製麺のメニューには長尾の料理体験がそのまま表れている。

「始めた頃、うちは立ち呑み屋でした。でも、2011年の震災の日、都心から歩いて帰ってきた常連さんから怒られたんです。『ここまで歩いてきて、そのうえまだ立って飲めというのか』と。そこで、スツールや椅子を用意したら、そのままになってしまって……。以来、普通の居酒屋です」 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

「「幸せ食堂」繁盛記」

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