沖縄にディズニーランドが誘致されるのでは、という話が盛り上がっている。「夢の国」と「政治」はミスマッチ、と思いきや、実はディズニーランドの世界的成功の背景には、政治との密接な結びつきが隠れている。(文/ノンフィクションライター 窪田順生)

政治抜きには語れない
ディズニーの世界的成功

 すでに報道されたように、宜野湾市がオリエンタルランドに普天間基地移設後の跡地への進出を打診したことに加え、菅義偉官房長官が、「政府として支援をできることはしっかり支援していきたい」と表明したことで、一気に現実味を帯びて語られ始めた。

沖縄のディズニー誘致は“政治の力”で実現できるか?過去には本国で原子力PRの一翼を担ったこともあるディズニー。日本でも政治のチカラ抜きにディズニーの繁栄は語れない Photo:REUTERS/AFLO

 一方、民主党の枝野幸男幹事長は「選挙対策としかいいようがない話だ。沖縄県民の皆さんをなめている」と厳しく批判した。

 なめているかどうかはさておき、言いたいことはよくわかる。誘致話が浮上した後、「琉球新報」がオリエンタルランドに確認したところ、こんな言葉が返ってきているからだ。「2日に宜野湾市の佐喜真淳市長と島尻安伊子・沖縄担当相が要請に来た。それだけで、こちらは何もしていない」

 佐喜市長といえば、自民党県議から仲井眞弘多前県知事の応援を受けて2012年に市長となったこともあり、仲井眞氏同様に「県内移設」容認派。来年1月24日には再選を目指す市長選が控えている。一方、島尻沖縄担当相も仲井眞氏が選挙対策委員長をつとめている。ともに「反翁長派の砦」として負けられない戦いのため、「ディズニーランド」という“飛び道具”を使った、と見られてもしょうがない。

 なんて話を聞くと、「政治のドロドロした駆け引きにディズニーランドを利用するなんて」と憤りを感じる方もいるかもしれないが、個人的にはこういう文脈に「ディズニー」という言葉が登場することに、なんの違和感もない。「ディズニーランド」と「政治」の距離は世間で思われているよりも非常に近いからだ。もっと言ってしまえば、このテーマパークの世界的大成功は「政治」を抜きにしては語れないのである。

 ディズニー好きにはわりとよく知られた話だが、1955年にロサンゼルス郊外のアナハイムに建設されたオリジナルの「ディズニーランド」には政府や軍が深く関わっている。その構造を早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授の有馬哲夫氏が「ディズニーランドの秘密」(新潮社)のなかで端的に解説している。

 《ディズニーランド、とくにトゥモローランドのアトラクションは、初めからアルミニウムや化学製品や石油などの会社のスポンサーがついていました。そして、アメリカ政府、アメリカ軍、軍事産業複合体もそこに加わっていました。(中略)ディズニーランドは、冷戦期のアメリカの軍事的ヴィジョンと無関係ではありません》

 東京ディズニーランドのトゥモローランドは、スペースマウンテンなどがある「SFアトラクション」のエリアだが、元祖ディズニーランドの場合はいわば、「軍事産業のパビリオン」のような位置づけだったというのだ。

 たとえば、「サブマリン・ヴォヤッジ」という潜水艦に乗りこむアトラクションは、ソ連崩壊がすすむ1987年まで「灰色の原子力潜水艦」という設定だった。スポンサーが世界初の原子力潜水艦ノーチラス号をつくったゼネラル・ダイナミクスだからだ。このアトラクションは単に利用者に「夢」を与えるだけではなく、米国政府の「原子力PR」の一端も担っていたのである。