「間違いだらけの答案」でも
司法試験をトップ通過できた理由とは?

【津田】政治でも「憲法によって規定された権力」と「憲法をつくる権力」は違います。イノベーションというのは結局、憲法をつくる権力のようなものですよね。

たとえば弁護士でも、「判例をつくる弁護士」と「判例に当てはめて結論を出す弁護士」という2つのタイプがいると思います。この2つというのはまったく違う。

【鈴木】全然違いますね。「判例をつくる」というのは、ものすごくクリエイティブであることが求められます。もう10年以上も前ですが、大学時代の恩師が東大法学部長時代に憂いていました。

「本来、裁判官というのは『これまでにない問題』に対してきわめて洗練された答えを出す仕事であり、それが判決というものなんだ。だから昔の裁判官は、本当に考えて考えて考え抜いて判決文を書いていた。
しかし、昨今の裁判官は、過去の判例からパターン的に判決を導いているような風潮がある。これをなんとか変えないとまずいことになる。法科大学院では『徹底的に考える法曹』を育てたい」と。

【津田】今の話で思い出したんですが、東大法学部の先輩で、昭和50年代に大蔵省にトップで入ったものすごい秀才がいました。
彼は司法試験もトップの成績で通ったんですが、試験のあとにどんな答案だったのかを、みんなの前で再現してみせてくれたんですよ。

それを見せてもらった同級生たちは、あっと驚いてしまった。なぜかというと、彼が答案中で引き合いに出している判例にはけっこう間違いがあったんです。

【鈴木】つまり、暗記に関してはかなりあやふやだったと(笑)。

【津田】そうなんです。しかし、答案そのものはとにかく徹底的に考えて書かれているので、論理性が非常に高い。だから知識が間違っていても、司法試験でトップになれたというわけなんですね。

当時の東大では、司法試験をいかに効率的にクリアするかという風潮があったんですが、彼の答案を見たことで「そうか、日本の法曹界が望んでいるのはこういう頭脳なんだ」とみんなの認識がガラッと変わりました。だから、その再現答案を見せてもらった人たちは、みんな翌年の司法試験に受かったそうです。

【鈴木】それはいい話ですね。

【津田】そういう意味では、現状の司法試験だとか東大入試でも、結果が同じ「合格」なのだとしても、本当は2通りいるはずなんですよ。覚えたことをアウトプットしているだけの人と、思考力を働かせながら問題を解いた人。試験の段階では同じ結果でも、社会に出てくるとその差が一気に目立ってくるように思いますね。

(第3回「東大卒で出世する人、しない人…どこが違うのか?」に続く)
[12/25配信予定]

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