先進国には「秩序の美」があるが、新興国には「混沌の美」がある。異文化マネジメントの専門家エリン・メイヤーが、スウェーデンとインドでの経験を対比させながら文化の多様性を示す。


 12月のある寒い朝、ストックホルムにいた私は小刻みに足踏みしながらバスを待っていた。バスが到着し、ドアから一番近くの女性が急ぎ足で乗り込もうとする。ホッとしながらその後に続こうとすると、私に向けられた怒りの咳払いが否応なく耳に入った。バスを待つ他の人たちが何となく列をつくっていたことに、私は気づいていなかったのだ。列に割り込むことは、たとえわざとでなくても、スウェーデンの文化では許されない。

 スウェーデンのように直線的な時間の文化を持つ国では、物事は1度に1つずつ、正しい順序で行うことが重視される(ドイツ、米国、日本、英国なども同様)。それは、会議のように平凡だが重要なことにも当てはまる。会議はスウェーデンの待機列のようでなくてはならない、というのが大方の前提だ。あらかじめ議事次第を送っておき、そこには開始時間、終了時間、議題、その順番、ときには各議題の所要時間まで記しておく。議事次第にない内容を持ち出してミーティングを「乗っ取ろう」とする人間がいると、「それは予定にないから、会議が終わってから話し合おう」とか、「皆さん、決まりを守りましょう!」といった声が上がることも多い。

 そうした会議では、誰かの発言中に隣の人と話したり、部屋の隅で携帯電話に出たり、中座するようなことは許されない。何かアクションを要する事項が持ち上がると(スベンがロッテに電話してサプライヤー3社から見積りを取ってもらう必要がある、など)、その件をメモして議事録として配布する。そうすればスベンは、サプライヤーの選定に関する電話と、話し合いをする「適切な」日時を事前に決めることができるからだ。

 寒いストックホルムへの出張から数週間後、私はニューデリーにいた。新しいトレーニングプログラムに関する一連の会議に出席するためだ。インドは時間に関してかなり柔軟な国である(サウジアラビア、ブラジル、ナイジェリアなども同様だ)。

 第1回の会議は、議事次第がしっかり設定されていた。しかし、開始後10分ほど経つと、室内の人々がいくつかの小グループに分かれてしまっている。想定していなかった重要な問題が持ち上がり、それらについて各々が話しているらしい。

 参加者のうち3人は、新しいプログラムの各セクションの記録をどのように取るか話し合っていた。サプナーとラケシュは、座席のプランについて活発に議論しながら部屋を出て行った。そうかと思えば、5分後にヴァルンを連れて戻ってきた。彼の持つ技術的な情報が必要だったようだ。

 正規の議題も同時進行しており、アクションを要する事項がいくつか持ち上がった。ニティンがリシに電話して日程を最終確定する、などだ。すると驚いたことに、ニティンはその場で即座に電話を取り、他の人が会議を続けている最中に話し始めた。