上流と下流を押さえて
一番太い商流を自社に取り込む

 当時パソコンソフトの最大手メーカーは先にも述べたとおりハドソンであった。孫さんはそのハドソンから、独占販売権を買い取るという離れ技を思いついたのだ。そのために、当時の資本金を上回る大金を調達し、ハドソンに払い込んでいる。規模こそ違うが、スプリントを買収するために2兆円近いお金を調達したようなことを、すでにこの頃からやっていたのである。

 危ない橋を渡ったものの、それによって、最大手メーカーの製品を独占的に販売できるようになった。その結果、多くの小売店が喜んでソフトバンクと取引するようになった。つまり、孫さんは顧客を買収することに成功したのである。

 ところが、ハドソンの側に立ってみると、独占販売権を売り渡すのはいいが、ソフトバンクが商品をさばき切れなかった場合、今度は困るのは自分たちだ。そこで、孫さんは川下に商品を流すことを保証する必要があった。

 ここで着目したのが、当時パソコンソフトの小売の最大手であった上新電機だ。ソフトバンクは上新電機に徹底的に尽くす戦略をとって、店頭でのパソコンソフトの売上げ増加に貢献した。これによって、パソコンソフトの上流と下流を押さえ、一番太い商流を自社の中に取り込むことに成功したのである。

 こうしたアイデアは、孫さんの頭の中に初めからあったものを、ポッと取り出してきたものではない。市場の中を歩き回り、会ったことのない人と会い、問題の構造を解明する中から、たぐり寄せることに成功したアイデアなのである。

 アインシュタインが次のようなことを言っている。

「私は地球を救うために1時間の時間を与えられたとしたら、59分を問題の定義に使い、1分を解決策の策定に使うだろう」

 ここで、アインシュタインが「問題の定義」と言っているのが、「問題の構造を解明すること」を意味する。地球が直面している危機とは何で、そこから救われた状態とはどのような状態なのかを解明することに大半の時間をかけるといっているのだ。それができれば、解決策などは1分で出てくるということだ。

 これに対して、アインシュタインの言葉を聞いたある大学の学長は、こんなことを言っている。

「ほとんどの人は、60分の時間を、本質的ではない問題の解決策を考えることに使ってしまっている」

 つまり、ほとんどの人は問題を与えられると、まず頭の中に思い浮かんだ解決策を次々と紙に書き出そうとする。そして、それを分類したり絞り込んだりすることに60分を費やしてしまう。ところが、1時間の時間を使い切ってしまったところで、実は答えは自分の頭の中にはなく、頭の外にあったことに気づく。