「地球を救う」といった自分の器を超える問題の答えが、自分の頭の中にすでにある人などいない。答えは自分に見えない世界の中にある。ところが、そんなことにも気づかず、多くの人が自分の頭の中に答えを求めて探し回る。それはなぜだろうか。

 それは、人は答えがないと不安を感じる生き物だからだ。その不安を抑えるために、何でもいいから答えらしきものを手にしたがる。こうした習性が、自分の器を超えた問題を解くことを難しくしている。

100個アイデアを出せば
量は質に転化する

 孫さんは「100通りのシミュレーションをしてからでないと、事業を始めてはいけない」と言っている。孫さんぐらいであれば、20や30であれば頭の中からポッとアイデアを取り出すことができるかもしれない。しかし、100と言われた途端、そうはいかなくなってくる。

 その結果、市場の中を歩き回り、会ったことのない人と会いながら、無意識の世界を刺激し、今まで自分に見えていないアイデアを浮かび上がらせていくことが必要になる。そして、「あっ」と思いついたアイデアが100個目に達する瞬間まで待つのである。

 孫さんは、「量は質に転化する」とも言っている。100個目のアイデアは、孫さんにとって単に100番目に出てきたアイデアというだけではない。目に見えにくい問題の構造を、誰よりも解明し尽くしたというシグナルになっているのだ。だからこそ、自信を持って巨額の資金を投資できる。ハドソンから独占販売権を買い取る、ADSLのモデムを駅前でタダで配るといったアイデアは、こうした活動の中から生まれてきている。

 孫さんは、「静的かつ常識的な分析フレームワークが通用する領域には進出せず、不透明ではあるが、主体的な行動により、環境そのものを変えられる領域で事業を展開する」と言っている。それを可能にしているのは、こうした問題の構造を解明し、自分の器を超えた問題を解決する力なのである。

 孫さんのように大きな野望に挑戦しなかったとしても、ビジネスリーダーとしてキャリアアップしていく過程で、あるところから自分の器を超える問題に取り組まなければならなくなる時期が訪れる。課長ぐらいまでは、高度な専門性を身につけてさえいれば、自分で問題を解決できることが多い。ところが、部長になったところぐらいから、自分の力だけでは解決できない問題に直面するようになる。

 というのは、部長クラスになると、解決しなければならない問題の性質が変わっていくからだ。それまでは問題の枠組みが比較的明確で、専門知識があれば解決できる現場レベルの問題が多い。ところが、部長以上になると、「企業価値をどう高めるか」といった問題に直面するようになる。そもそも企業価値をどう定義するかといったところから、様々な解釈の余地があり、問題の枠組み自体が混沌としたものになっていくのだ。

 こうした問題は、営業、開発、製造といった特定機能の経験だけで解決できるものではない。それまでに自分が蓄積してきた専門知識や経験だけでは問題を解決できなくなっていく。問題の大きさが自分の器を超えてしまうのである。

 孫さんは、30代で1000億円の事業価値を生み出すことを自らに課した。とても自分の専門性や経験だけで解決できる問題ではない。こうした問題にチャレンジすることが、情報革命後のビジネスパーソンにとっても求められることになろう。