自分の業務を語れない業務担当者

 とはいえ、要件定義はITプロジェクトの鬼門です。
 理由のひとつは、業務部門がきちんと業務を語れないこと。
 もうひとつは、どんなITが欲しいかを言うのがとてもとても難しいことです。

 まず、自分の業務についてきちんと語り、判断を下せる業務担当者が少なくなっています。

 これには、派遣社員のような、期間限定の形態で働く人が増えたことが影響していそうです。
 皮肉なことに、いま使っているITがよくできていればいるほど、「目の前の作業さえ理解していれば、とりあえず仕事が流れていく」という状況になっています。

 極端に言えば、
  ・お客さんからの発注書をITに入力して、コレを確認すればいい
  ・なんだか知らないけれども、ココにコレを入力してOKボタンを押す
 みたいな感じです。

 業務担当者がこの職場に来た時には、すでにITが完成していて、業務はITの上をベルトコンベア的に流れるようになっていた。そうすると、ビジネス全体に占めるこの仕事の意義とか、データについての理解はなかなか進みません。

 わたしが業務ヒアリングしても、「ここから先は隣の課が担当しているので、よくわかりません」なんてことはしょっちゅうです。

 ですから、ITプロジェクトでも最初にやるのは「業務の意味をきちんと語れるキーマンは誰か」を探すことなのです。

人は、自分が欲しいものを表現できない

 業務をきちんと語ってくれれば、ITエンジニアは「じゃあ、こんな機能がいるんじゃないですか」と提案できます。
 でも、なかなか語ってくれない……。

 では、ダイレクトに「こんなITが欲しい」と言ってくれるかというと、それもまた結構難しい。
 よく「2000年時点の携帯電話ユーザーに要望を聞いても、iPhoneみたいのが欲しい!とは言わない」という話があります。

 ほとんどの人は、欲しいものを見せられて初めて「ああ、これだよ!」とか、「ここ、もうちょっと変えられない?」と言えるのです。