昨年11月4日、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の郵政3社が東京証券取引所に株式を上場した。総額1兆4400億円を調達した郵政3社の上場は、2015年最大の大型上場。世界中の注目を集めた。なぜ親子上場という形をとったのか、誰が損をして誰が得をしたのか、今後、日本郵政グループが成長するための課題は何か。IPOに詳しいハーバードビジネススクールのカール・ケスター教授が徹底解説する。(聞き手/佐藤智恵 インタビュー〈電話〉は2015年11月11日)

日本郵政グループ3社の上場は
「成功」と言っていいのか

佐藤 2015年11月4日、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の郵政3社が東京証券取引所に株式を上場ました。日本では「2015年最大の新規株式上場(IPO)」と報じられましたが、アメリカでも経済ニュースで大きく取り上げられたのでしょうか。

郵政3社の上場、誰が得をして誰が損をしたかカール・ケスター
W. Carl Kester
ハーバードビジネススクール教授。専門はファイナンス。MBAプログラムとエグゼクティブプログラムでコーポレート・ファイナンスを教える。国際企業財務、コーポレート・ガバナンスを専門に研究。野村マネジメント・スクール「トップのための経営戦略講座」他、世界各国のエグゼクティブ講座で教鞭をとる。日本企業について多くのケース教材や論文を執筆。主な著書に“Japanese Takeovers: The Global Contest for Corporate Control”(Beard Books Inc, 1991)、最新の日本企業のケースに、“Venture Republic, 2011”(Harvard Business School Case 215-076, May 2015)がある。

ケスター もちろんです。アメリカでも郵政3社の上場はビッグニュースでした。このニュースが世界的に大きく報道された理由は2つあると思います。1つは、売り出し総額が桁外れに大きかったこと、そしてもう1つが、国営の郵便会社の上場だったことです。いまや、日本やアジアだけではなく、世界中で国営の郵便会社が次々に民営化されているため、郵便会社の動向は注目されているのです。

 言うまでもありませんが、投資家も大きな関心を寄せています。これほどの大企業が3社も同時上場したのですから、投資家にとっては、大きな投資チャンスです。今回は、主に日本国内の個人投資家をターゲットに売り出されたと聞いていますが、国外の個人投資家、ヘッジファンド、機関投資家なども、この3社の株に注目しています。

佐藤 日本政府は当初の想定を上回る約1兆4400億円の資金を調達しましたし、上場後、株価は急騰しました。この結果をどのように見ていますか。郵政3社の上場は「成功」と言えるのでしょうか。

ケスター それは大変良い質問ですね。私はハーバードのMBAプログラムでもエグゼクティブプログラムでもIPOについて教えていますが、どのような事例でも「IPOが成功したかどうか、どの段階で判断すればいいのか」というのは非常に重要な問題です。

 確かに郵政3社のIPOは、多くの投資家や株式引受業者にとっては、「大成功」だったといえます。新規株式はすべて売り切れていて、買いたくても買えない人がいるほどの人気でした。11月4日に上場すると、株価は急激に上昇し、売り出し価格で買うことができた投資家はあっという間に大きな利益を手にすることができました。こうした投資家にとって、郵政3社のIPOは「成功」であったでしょう。

 また日本郵政グループにとっても上場は「成功」でした。今回、これだけ株価が上昇したということは、投資家は、次も上がるはずだ、と考えるでしょう。子会社の株式は今後、2次売却、3次売却されることが決まっているわけですから、「次にゆうちょ銀行やかんぽ生命保険の株が売り出されるときにはぜひ買いたい」と思った人はたくさんいたはずです。郵政3社に投資したいという人を増やした、という意味では、日本郵政グループ全体にとっても成功だったと言えます。