突如買わされた
50万ドルの品

 ある年、TVB(香港の民間テレビ局、無線電視の略称)がパーティーを開いた。あの頃、たしか連中は毎年のように宴会を開いていたかな。ちょうどその前後、ジョニー・トーと組む話をしていて、彼はその宴会に行くと言うから、じゃ僕も行って、そこで会おうということになった。

 あのとき、自分は招待者リストに入っていなかったから、主催者側に迷惑をかけないために、ほとんど人には言わず、一人でこっそりと忍び込んで、ジョニー・トーの席を見つけると、しゃがんだまま素早く移動して彼に近づいた。当時はまだケータイがないので、そこでしゃがんだままジョニー・トーと話して、このあとの待ち合わせ場所を決めると、また人知れず出ていこうとした。

 このとき、壇上の人に見つかってしまい、その人は、「おっと? “大哥”(ジャッキーの愛称)がいらっしゃいますね、“大哥”もぜひ協力してくださいよ」と言った。何のことか分からず、ひとまず立ちあがっては、手を挙げてみんなに挨拶するつもりだったが、壇上の人はすかさず「よし! “大哥”が50万ドルを出すと!」と言った。あっけにとられた。何でわけが分からないうちに50万ドルを出すことになったんだ? あの時代で50万は大金だったよ。連中が冗談を言っていると思ったので、ジョニー・トーに挨拶をしたあと、立ち去ろうとしたが、そのときに後ろのほうで「50万ドル1回目、2回目、3回目」と聞こえ、で、ドンと、小槌の音。「“大哥”、ありがとうございます!」と言ってくる。オークションに参加させられていたわけだ。

 少しばつが悪かったが、何て言えばいいか分からず、しかたなく立ち去った。スタッフの人には、物は何だとしても、おれの事務所に送ってくれればいいよ、と言い残した。そのあとはジョニー・トーに、お前に会っただけで、50万がとんでしまったよ、と文句を言ってやった。で、物が届けられると、やっと自分が買ったのは徐悲鴻(ジョ・ヒコウ)の絵、大型の、馬を描いた絵だったとわかった。これが縁というものかもしれない。

 いま、家を訪れる人たちはこの絵を見ると、これは高価だと言ってくれる。自分にもそれはどれくらいの価値があるか、よくわかっていない。数千万ドルだと言う人もいるし、数億だと言う人もいる。どっちでもいいことだ。そのあと、何回か、慈善活動をやったとき、オークションに出そうと思ったが、毎回同じ人物に止められた。それは、ほかでもない、ジェイシー(ジャッキー・チェンの息子)だ。彼は、「親父、あなたの金はいらないから、この絵だけは残してほしい」と言う。だから「いいよ」と言った。