暴走族に囲まれて

 二度目は香港の清水湾で。夜の現場に向かうために、街灯のない黒々とした道を運転していると、とにかくたくさんのバイクが、横から次から次へと追い越していった。深夜だったし、こういうバイクの音がうるさくて嫌いなんだ。だから、

「チンピラめが」

と罵った。しかし、言い終わらぬうちに、1台のバイクが車の横から追い越そうとして、ハンドルさばきをしくじり、ドアにまっすぐにぶつかってきて、運転手は宙返りしてボンネットの上に乗った。幸い、こっちはスピードを出していなかったから、その男も怪我はなさそうだった。車のドアは、メチャクチャに凹んでいたが。

 すると、バイク集団が停まり、全員が車を取り囲んできた。連中はまず、ボンネットの上に乗った奴を下ろして、横に助けた。で、車のドアを開けてきた。今度はサングラスもかけずに、

「おい、若者たちよ」

と声をかけた。連中は一斉にこちらを見た。

「おれの車を心配するやつはいないようだな。君たちがやってることは危険だって分かるか? おれの車はいいとしても、そいつが死んだらどうするんだ」

と言った。

 連中は黙ったまま、この説教を聞いている。ほんとを言うとあのとき、けっこう怖かったんだよ。連中がまとめて飛びかかってきたら、一瞬で身ぐるみはがされ、殴られ、下手したら、連れ去られるかもしれない。

 しかし、今度も誰かが出てきて、

「ごめんなさい、“大哥”」

と言ってきた。

「そいつ、病院へ連れていこうか」

と聞くと、

「大丈夫ですよ、立てるみたいですし」

と言う。

「分かった。これからは気を付けてね。じゃね」

と言った。

(続く)