アラブ 2016年2月23日

教えて! 尚子先生
なぜ今、イランとサウジアラビアは対立しているのでしょうか?<後編>【中東・イスラム初級講座・第30回】

新年1月3日、中東の大国イランとサウジアラビアが国交を断絶するとの報道が世界を駆け巡りました。なぜ今、このような事態が起こったのでしょうか。中東研究家の尚子先生が緊急解説。イランが革命を経て、国際舞台への復帰を果たした経緯を紹介した前回に続き、今回はその間のサウジアラビアの動きと2国間の関係についてです。

●【関連記事】「教えて! 尚子先生 なぜ今、イランとサウジアラビアは対立しているのでしょうか?」<前編>

 長い長いトンネルを抜けてようやく国際舞台に復帰したイランとは対照的に、サウジは逆に欧米諸国、とくにアメリカとの関係において、陰りがみえはじめた感があります。

 サウジ建国についてざっと簡単におさらいすると(※)、サウジアラビアという国家はもともと、ムハンマド・イブン・アブドゥルワッハーブが提唱する宗教運動(ワッハーブ運動)が発端となって国家建設がなされました(1741~1818年、1824~1891年、1931年~現在まで)。

 ワッハーブはコーランを文字通り尊守し、イスラム法を厳格に守るべきであると主張し、シーア派が慣習的に行なっていた聖人崇拝や聖者廟詣を偶像崇拝と強く非難しました。

※サウジアラビアの建国については、「アルカイダとは何ですか?」を参照してください。

 現在のサウジ領域に居住していたシーア派の住民は、ワッハーブ運動によって避難を強いられました。シーア派の人々がサウジの東部や現在のバーレーン(住民の8割と言われている)に多いのはこのためです。

 ワッハーブのイスラムの改革運動の実現を政治的・軍事的に支えたのがサウド家でした。サウジ王家による統治の正当性は、ワッハーブ派の守護者としての正当性だったのです。

サウジアラビア――石油利権をめぐる攻防

 1932年の建国当初、サウジではまだ石油は発見されていませんでした。主な収入源はメッカ巡礼者からの収入だけだったために、財政難に苦しんでいました。周辺のイラン、イラク、クウェートなどではすでに石油が発見され、その利権をめぐり猛烈な植民地獲得戦争が繰り広げられていました。

 イギリスはすでに1912年には海軍の燃料を石炭から石油へと変更していたので、この地域の重要性をはっきり認識していました。そのため、第一次世界大戦後、オスマン帝国が敗戦した場合、ロシアとフランスとこの地域を分割する密約すら結んでいたのでした(※)。

※サイクス・ピコ協定:「パレスチナ問題とはなんですか?」を参照してください。

 この石油をめぐる争いに出遅れたのがアメリカでした。アメリカは協定(レッドライン協定)により、単独では旧オスマン帝国内で石油を開発することができなかったために、オスマン帝国の領土以外で新たな石油を発見しなければならなかったのです。

 そこで目をつけたのがサウジでした。イギリスはサウジでは石油は発見されないと思いこんでいたため、アメリカの動きをけん制しませんでした。

 アメリカの石油会社は1933年、石油が発見されていないにもかかわらず、財政難で苦しむサウジ王から石油の採掘権を買ったのでした。ですが、石油はなかなか発見されませんでした。

 そして1938年、サウジの王がリヤド近郊に水を求めて水脈の調査を依頼したところ、念願の石油が、ようやく、しかも大量に発見されたのです。バーレーンで石油が発見されたことから、東部を中心に調査がなされ、リヤド付近は調査されていなかったのでした。

 1939年から第二次世界大戦がはじまるため、まさにサウジでの石油の発見は大戦前夜の発見であったといえるでしょう。戦争の遂行に石油が不可欠であることは明らかです。この大戦によって、石油会社と国家の意向が合致します。

 石油会社は政府を動かし、1943年、ルーズベルト大統領にサウジは「アメリカの防衛にとって死活的に重要な国」と認定させ、武器供与法に基づいた支援を開始させます。こうしてアメリカとサウジとの軍事協力関係が始まったのです。

サウジ国境遠景=アカバ,ヨルダン【撮影/安田匡範】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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