ヤフーとIBMが投げかけた
租税回避行為の大きな波紋

ヤフーとIBMの訴訟を教訓に租税回避行為とどう戦うべきか?ヤフーとIBMの「租税回避行為」訴訟の行方を通じて、国際標準から大きく遅れた日本の租税回避議論を検証する

 子会社の損失を組織再編することによって自社に取り込んだり、グループ会社間の自社株買いを活用して生じた譲渡損失を自社の利益と相殺することにより税負担の軽減を図る取引が、国税当局と企業との間で裁判になっている。

 前者は、巨額の欠損金を抱えていたソフトバンクの子会社を合併して自社の利益と相殺したヤフー事件である。一方後者は、日本IBMの親会社(日本法人、中間会社)が、米国IBMから資金提供を受け、米国IBMの持つ日本IBM株を購入し、それを子会社の日本IBMが買い取るという取引である。いずれも2014年に最も注目された税務訴訟のケースだ。

 日本IBMは、この自社株買いに伴い、みなし配当とほぼ同額の譲渡損失が生じることとなる。みなし配当の方は非課税で譲渡損失の方は利益と相殺できるので、結果として5年間で4000億円を超える所得の税負担を軽減することができたという。

 どちらも、「損失」を利用することにより、自らの税負担を軽減するという取引で、脱税でもなく節税でもない、いわゆる「租税回避(行為)」と認識されている。

 このような行為に対して国税当局は、法人税法に規定されている同族会社の行為計算の否認規定(法人税法132条)と、組織再編にかかる行為計算の否認規定を適用して、どちらの行為も否認をしたが、納税者側は納得せず裁判になった。

 結果、ヤフー事件の方は、1審(東京地裁)も2審(東京高裁)も国税当局が勝訴、IBM事件の方は、納税者勝訴となった。ヤフー事件は東京地裁平成26年3月18日判決、東京高裁平成26年11月5日判決、IBM事件は東京地裁平成26年5月9日判決、東京高裁平成27年3月25日判決である。

 事実関係が異なるから単純な比較はできないが、2つの事件を判断する法律の規定・要件は、どちらも「(当該行為・計算が)法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかという、同じ文言である。

 これをそれぞれの事件に適用するにあたって、ヤフー事件では、「(1)取引が経済的取引として不合理・不自然である場合、(2)当該効果を容認することが、組織再編成税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかである場合」の2つが判断の基準として判示された。