音楽配信の「ラジオ型」と「オンデマンド型」

 定額制音楽配信サービスは2つのタイプに分けられる。一つは「ラジオ型」で、ラジオの聴取のように、サービス提供サイドが用意したプログラムから選び音楽を聴くスタイルで、月額料金は低く設定されている。もう一つは「オンデマンド型」で、利用者は自分の聴きたいアーティスト、楽曲を自由に検索し、再生できる。月額料金は1000円前後が多い。「KKBOX」は後者のオンデマンド型であり、月額980円(税込)で聴き放題となっている。※iTunes決済の場合は税込み1,080円。

 音楽配信サービス数の増加はユーザーにとって朗報だが、「どれを選べばいいの?」が問題にもなる。特に、初心者は悩んでしまうところだが、要は「ユーザーと各社が提供するサービスとの相性」だろう。特徴として打ち出す部分に共感できれば、そのサービスを利用する価値は高い。「KKBOX」の特徴をひと言で表せば「つながり」で、その象徴が独自の音楽ソーシャル機能の「Listen with」だ。

人と人をつなぐ、独自の音楽ソーシャル機能「Listen with」

 直訳すれば「一緒に聴く」。その言葉の通り、自分が聴いている曲をアプリ上に公開し、他のユーザーと一緒に楽曲再生できる機能だ。同じ音楽をリアルタイムで共有でき、チャットで交流もできる。

「地域や国境を超えて音楽好きの繋がりを作るのが目的です。当初はユーザー同士のネットワークを想定していましたが、アーティストに参加してもらうことで、多くのファンがアプリを立ち上げて聴くきっかけになり、利用者が一気に増えました。今では新しい音楽の楽しみ方として受け入れられ、プロモーションの一つとしても定着しています」

スマホアプリの画面。右下の「一緒に聴く」を選ぶと、人気DJのリストが表示される。お気に入りのDJを見つけると、自分好みの新しい曲と出合えるチャンスも。詳細はここから

 日本でも2013年から導入されている。アプリをダウンロードして試してみた。画面に表示される国内外のDJ(音楽を公開するユーザー)のアイコンをタップすると、そのDJが今聴いている音楽を自分も聴くことができる。チャットでやりとりするのも簡単だ。海外DJと“一緒に聴く”と、アジア圏のユーザーはこういう曲を聴いているのか、という発見があり、なかなか面白い。

 単に配信曲数を競うのではなく、こうした付加価値、音楽との新たな出会いや感動をユーザーが体験できるかが、音楽配信サービスの差別化につながっていくのだろう。

「日本のユーザーは奥ゆかしいというか、積極的に公開する人はまだ少ないのですが、アーティストや文化人とつながり、同じ音楽体験ができるところには敏感に反応してくれています。これからもいろんな出会いを提案しきます」

日本と海外をつなぐメディアとしての影響力も

 音楽配信を、便利なデジタルコンテンツで終わらせるのではなく、人と人をつなぐメディアとしての側面を強調するのも「KKBOX」の特徴だ。

2016年の「KKBOX Music Awards」に参加したSEKAI NO OWARI。台湾をはじめ、アジアでも非常に人気があるアーティストだ。詳細はここから

 例えば、2006年から開催されているミュージックアワード「KKBOX Music Awards」は、毎回1万人以上を動員するビッグイベントとなっている。日本からも、14年にはPerfume、15年にはMay J.、そして16年にはSEKAI NO OWARI が出演し、大きな盛り上がりを見せた。

「デジタル化によって便利になった先、何が差別化の要因になるかといえば、アナログ的な価値観や、人と人のつながりだと思います。だからこそ『KKBOX』はメディアであることを強く意識しています。アジア最大のサービスを提供する『KKBOX』として、単に音楽を配信するだけでなく、海外のアーティストを日本へ/日本のアーティストを海外へ紹介する、その橋渡し的な存在でもありたい」

「KKBOX」は、昨年10月にSEKAI NO OWARIの初の海外単独公演を主催し、日本を含むアジア6カ国に独占配信。さらに、1月に実施したONE ON ROCKの台湾ライブでは独自のサービスでチケット手配のサポートをした実績がある。

 確かに、親日国の多いアジアならマーケットにも受け入れられやすいだろう。メディアとして日本のアーティストとアジアの市場をつなぐ「KKBOX」は、単なる音楽配信事業者ではなく、「ミュージック・ビジネス・インキュベーター」として新たな市場の創造も行っているのだ。