合併を機に公共交通に大ナタ
平日朝夕は路線バス、昼はオンデマンドバス

過疎・高齢化地域の公共交通をどう維持するか?広島県北部の中山間地域にある安芸高田の市役所。市民ホールを備える立派な建物 Photo by Kenji Momota

 少子高齢化や過疎化が社会課題となっている、中山間地域の交通政策で、思い切った動きを見せている自治体がある。それは、内閣府が進める地方創生における政策の「小さな拠点」の手引き書でも事例として取り上げられた、広島県の安芸高田市の試みだ。

 広島市内から北へクルマで約1時間。Jリーグ・サンフレッチェ広島の練習場や、戦国武将・毛利元就の本拠地として知られる安芸高田市に着いた。

 ここは、吉田町、八千代町、美土里町、高宮町、甲田町、向原町が平成16年3月1日に合併して誕生。人口3万1487人の中山間地域である。

 合併に伴い、平成17年度に「生活交通確保対策推進計画」を策定し、平成20年には公共交通協議会を設置した。その際、公共交通に関するアンケート調査(郵送で調査書を配布・回収件数1843件・回収率61.4%)や、交通不便地区でのグループインタビューなどの聞き取り調査を実施した。

 そうした“草の根調査”の結果に基づいて、平成21年10月に、安芸高田市は大胆な発想による、新しい公共交通システムの実証運行を開始。路線バスは、利用者数が多い朝夕のみとし、日中はオンデマンドバスのみの運行としたのだ。

過疎・高齢化地域の公共交通をどう維持するか?安芸高田市の「お太助バス」。33人乗りの「さんさん」(写真手前の2台)と、55人乗りの「ごーごー」(写真奥)。これらは地元の備北交通が運行している Photo by Kenji Momota

 具体的には、路線バスは55人乗りの『お太助バス「ゴーゴー」』と、33人乗りの『お太助バス「さんさん」』の2種類で、地元の備北交通を中心に運行する。時間は、月曜から土曜日の午前7時頃から午前8時頃までの朝1時間と、午後4時頃から午後7時頃までの3時間で、1日合計4時間のみ。日曜・祝日・年末年始は運休する。運賃は走行距離によって変動する、旧型の料金システムだ。

 一方、オンデマンドバスは、13人乗りと10人乗りの「お助けワゴン」。基本ルートは、八千代地区、美土里地区、甲田向原地区、高宮甲田地区の各町内から市の中心街の吉田町を結ぶ。特徴は、停留所はなく、お客の家の近くから目的地の近くに直接行くことができる点だ。利用は2日前から乗車の30分前まで、電話で予約を受け付ける。運行は月曜日から金曜日の午前8時から午後4時まで。土日・祝日・年末年始は運休だ。料金は、町内は大人300円・小中学生と障害者手帳提示で100円、町外へは500円・200円、乗り継ぎの場合は300円引き・100円引きとなる。

 この他、市境を越えて運行する広域路線バスは終日の運行である。

 こうした思い切った施策を打ったことについて、市の企画振興部・政策企画課の戸田邦昭氏は、「路線バス運用に赤字補填を繰り返すなか、赤字を減らすためにバス路線を縮小するとさらに利用者が減るという、負のスパイラルから抜け出せない。そのため、根本的な公共交通機関の見直しは必要だった」と、新しい公共交通システム導入当時を振り返った。

 また、市が平成26年5月1日に行なった、新しい公共交通システムの利用者アンケート集計では、利用回数では、月に1・2回が42.2%、週に1回が24.8%、週に2・3回が13.9%などだった。利用目的では、通院が54.1%、買い物が34.6%で大半を占めた。そして「移動が便利になったか」との問いには82.2%が「はい」と答え、外出機会については「やや増えた」と「変わらない」が同じく37.6%、「かなり増えた」は12.2%に止まった。総合的な感想では、満足が49.8%、ほぼ満足が33.7%を占めた。