子どもの視点×親の視点×グローバル人材育成の視点

  本書の第一の特徴は、本書が依拠するアンケート調査の類まれな質の高さで、包括性と重要性を担保していることだ。

 本書は前述の通り「優秀なエリート学生の家庭教育方法」に関する大規模な調査に基づいている。アンケートへの回答を体系的にカテゴライズすることで、重要なトピックを「7大方針55か条」ですべて網羅するという包括性にこだわった。幅広い調査を重視したのは、優秀な子息を育てた一家族の育児法紹介では往々にして我流の域を出ず、特定の家庭でのみうまくいった物語で終わってしまうからだ。

 また本書は非常に重要な、優先順位の高いテーマしか扱っていない。日本を代表するいわゆるエリート学生の皆さんに「家庭教育を振り返って、最も感謝している点・最も不満に思っている点」について回答してもらっているため、重要なトピックとそうでないトピックが玉石混淆となり無駄なページが発生することはない。自分で言うのも嬉しいが、本書はこのアンケートの生データだけでも稀有な一級の育児参考資料になるだろう。

第二の特徴は、著者の豊富な育児経験からくる、一般論に頼らない実践的な育児論の数々だ。共著者のミセス・パンプキンは、延べ160年に及ぶ母親経験(4人の子どもの年齢合計)に加え、親戚の子どもも預かって家で育てる等、極めて豊富な育児経験を有している。

 さらに膨大な育児経験をもとに、東洋経済オンラインで3年にわたって非常に人気の高い育児相談コラムを連載中である。また彼女は3年間ほぼ毎週の育児相談と、これまで幾多の親戚・友人・知人からの合計で数百を超える家庭相談にのってきたため、世の中には極めてさまざまな家庭のタイプ、子どものタイプがいることを熟知している。

 その4人の子どもは京都の片田舎に生まれ、長女がカナダの大学の教員、次女が公認会計士でロンドン勤務、次男がニューヨーク州弁護士、そして長男の私が海外の金融機関の道に進んだ。また、同じ家庭ながら、子どものタイプはそれぞれ大きく異なっている。
 長女は生まれつき大の読書好きだが緊張感がなくおっとりしている。次女は生まれつき恐ろしく几帳面な努力家で完璧主義者だが、頑固である。長男の私は基本的に気の向くことしかしない、よく言えば自由主義、悪く言えば極度の面倒くさがり屋だ。末っ子の弟は大志を抱く夢見る冒険家だが、私への極めて反抗的な態度を見るに、わがままで自分勝手である。

 本書では子どもの多様性を鑑み、育児に一般解はないと十二分に留意したうえで、ほとんどのタイプの子どもに当てはまる「最大公約数的な共通項」と、タイプ別に推奨が異なる「背反する育児論」を双方扱っており、決して一般論を押しつけたりはしていない。

 本書の第三の特徴は、本書が単なる育児本ではなく、本質的にはリーダーシップ養成本であることだ。

 各章の冒頭では、私がさまざまなグローバル企業で見てきたリーダーシップあふれる一流のエリートたちの行動特性と、今回論じられるリーダーシップ教育論がどう関係しているのかを明示的に解説している。
 実際に国際的なコンサルティングファームや金融機関、多国籍企業のエリートや起業家の中でも「生き生きと自己実現している一流のリーダーたち」に、「子どものころの家庭教育方針の中でも何が自分の行動特性に影響したか」、また、「自分自身の子どもをどのような方針で育てているのか」を幅広くインタビュー調査し、一流の育児方法を浮き彫りにしているのだ。

 本書は200人ものエリート学生の「家庭教育に関する子どもの視点」、ミセス・パンプキンの合計160年の親としての経験からくる「親の視点」、そして私の幅広いグローバル・キャリアで実感した「グローバル・ビジネスパーソンの視点」で複眼的に捉えた、自己実現のためのリーダーシップ養成テキストである。