ドナルド・トランプにしたってきみだって
宇宙の中心であるはずはない

 でも、何もハイスクールだけに限ることはないですよね。何といっても、もうさよならしようとしているのですから。だから、こう考えてみましょう。仮にきみが100万人に1人の存在だとしても、この地球には68億人の人がいますから、7000人くらいは同じような人がいることになります。ボストンマラソンのある「マラソンマンデー」にワシントンストリートのどこかに立っていて、目の前を6800人の自分が駆け抜けていくところを想像してみてください。

 それに、ちょっと、もう少し広い世界のことも考えてみましょう。きみたちのこの惑星、言っておきますが、これは太陽系の中心じゃないですよね。太陽系もこの銀河系の中心じゃありません。この銀河系も宇宙の中心じゃない。というか、天体物理学者はわたしたちにはっきりと、宇宙には中心はないと言っていますよね。だから、きみたちが中心であるはずはないんですよ。ドナルド・トランプにしたってね……誰かがそう言ってあげたほうがいいでしょう……まあ、あの髪はちょっとしたものだけど。

「でも、先生」と言いたいんでしょう。「ウォルト・ホイットマンは、きみはきみなりに完璧だと言ってますよ! エピクテトスも、きみにもゼウスのひらめきがあると言ってますよ!」とね。わたしもそれは否定しません。

 そうすると、68億人の完璧な人間がいることになります。68億のゼウスのひらめきがね。わかるでしょう。全員が特別になったら、特別な人はいなくなるんです。みんながトロフィーをもらったら、トロフィーの意味はなくなります。ひそかに、だけどそんなに隠すこともなく行われているダーウィンの言うお互いの競争にしても――わたしが思うに、自分の存在意義がなくなるのが怖くて起こるんじゃありませんかね、死ぬのが怖い、みたいな気持ちがどこかにあって――最近のわたしたちアメリカ人は、ずいぶん損をしていると思うのですが、ほんとうにやったこと以上にほめてもらいたがる傾向があるんじゃありませんか。そういうことをだいじにするようになって――そのために喜んで基準を下げたり、現実を無視したりする傾向がね。