高すぎる期待値。お粗末な実態

 すれ違いの原因は、エンジニアじゃない人は、ITプロジェクトをそれほど難しい仕事だと思っていないこと。
 役員さんも、別にエンジニアをいじめようと思って言っているわけではありません。単に、実態に比べて期待値が高すぎるだけなのです。

「お客さんに迷惑をかけるなんて論外で、些細なミスだって、なくて当然だろ?」

 社長をはじめとする役員さんたちは、これまで成功体験を積み重ねて出世したので、「仕事というのは、原理原則をきちんと守り、積み上げれば成功するものだ」という意識が強いようです。
 だから、ITプロジェクトがこんなに波乱万丈で、時には大失敗してしまうことが、腑に落ちません。

 ところが、ITの世界では勝手が違います。
 新聞沙汰になった巨大プロジェクトだけ見ても、スルガ銀行とIBMが法廷闘争をしていたり、5年ほどやっていた特許庁のプロジェクトが中止になってゼロから再出発したり……。
 終わらないプロジェクト、予算の何倍もかかったプロジェクト、もともと掲げていたゴールを達成できなかったプロジェクトは数多くあります。

ITプロジェクトは荒馬か? 乗馬か?

 わたしは、セミナーなどでよくこんな話をします。
「ITエンジニアは、プロジェクトを『カウボーイが乗る荒馬』みたいだと思っている」
「一方の経営幹部や業務担当者は、プロジェクトを『お嬢様の乗馬』だと思っている」

 それを聞いた時の反応もずいぶん違います。
 経営幹部や業務担当者は「ふーん、そんなもんかねぇ」ですし、ITエンジニアは「そうそう、振り落とされそうな感じ!」と共感してくれます。

 冒頭の、無事稼動したプロジェクトでご一緒した方とも、
「ここまで、異例な程にうまくいっているけれども、局面、局面を見れば、荒馬に振り落とされそうなことは何度もありましたよね~」
 と振り返ったものです。

 プロジェクトは、普通にやれば失敗します。
 たとえ成功したとしても、粛々と成功するなんてあり得なくて、荒馬をなんとか手なづけて、ゴールに辿り着いただけという有様。

 つまり、期待値がそろっていないのです。