集団分析で傾向を把握し、
職場の改善に活用する

日本産業精神保健学会認定
産業精神保健専門職
山﨑友丈氏

 多くの企業では、人事部や総務部がストレスチェックの担当部門になるだろう。そうした部門からは、「面倒だが、義務だから仕方がない」という声も聞こえてくる。しかし、そうした受け身の対応では、せっかくの機会を無駄にしてしまいかねないと山﨑氏は懸念する。

「従業員のメンタルヘルスは、以前から企業にとっての課題でした。個人の健康問題として重要というだけでなく、高ストレスな職場では生産性が低下しがちで、さらに業績にも悪影響を及ぼす可能性が高いからです。企業は今回の制度を、いかに職場改善の好機として活用するかを考えるべき。一方の個人にとっては、自分のストレスの度合いを知ることで、生活や働き方を見直すきっかけになります」

 ストレスチェックの結果は、個人のプライバシーに関わる情報。従って、厳しい規制がある。例えば、「Aさんは高ストレスを抱えている」という情報は、本人が望まなければ、企業が知ることはできない。プライバシー情報にアクセスできるのは、ストレスチェックの実施者(産業医など)である。

 これに対して、集団分析はプライバシー問題を回避できる。部門や役職ごとの傾向をつかむ中で、企業はストレス度の高いグループを特定することができる。そのグループの働き方、業務内容などを検討すれば、おのずと問題点が浮かび上がってくるはずだ。こうした問題に一つ一つ対処する中で、職場改善を進めることができる。

「従業員の健康の維持・増進は、企業にとってコストではなく、一種の投資です。経営者はそんな意識を持って、ストレスチェック制度を運用してもらいたいですね。適切な投資を行えば、必ずリターンとして戻ってくるのです」(山﨑氏)

 最近は、「健康経営」という言葉がしばしば使われるようになった。心身共に健康な従業員の存在は、企業競争力の基盤である。