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JAPANなニュース 英語メディアが伝える日本

「伝統だから」という伝統に苦しむ角界は現代日本の象徴か

加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]
【第5回】 2010年7月7日
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英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は角界の野球賭博スキャンダルについてです。英米メディアは実は「sumo」がけっこう好きで、いいことも悪いこともその都度、それなりに詳しく報道してきました。なぜ好きかというとおそらく、これほどパッと分かりやすく、エキゾチックなものはそうはないから。現代にありながら前近代的でもある相撲は、欧米人が思う「日本的なるもの」そのもの。ゆえに、「伝統だから」で色々なことが容認されてしまう「伝統」から脱却できずに苦しむ角界は、まさに現代日本そのものだ――という(少し安直な)日本論を展開しやすい題材なのです。(gooニュース 加藤祐子)

公然の秘密がやっと秘密でなくなった?

 1990年代に私がイギリスにいたころ、ケーブルテレビが相撲を放送したり、「ロンドン公演」が開かれたりもして、「sumo」は驚くほどイギリス人によく知られていました。当時の角界は千代の富士引退を惜しみつつも「Konishiki」や「若・貴」人気で湧いていたし、世相的にも湾岸戦争がついに始まったと思ったら終わったし、日本のバブル崩壊は始まっているけれどもまだ実感はないし……。今から思うと、なんだか陽気で暢気な時代です(単に自分がまだ若くて浮ついた学生だったから、陽気で暢気だっただけかもしれませんが)。

 なのにここ数年、力士の大麻使用から時津風部屋の暴行死事件、八百長疑惑、朝青龍の色々、そして野球賭博問題に至るまで、日本の相撲界は、ただエキゾチック・ジャパンにして迫力ある巨漢同士の格闘技というだけでは収まらない諸々の事象を、英語メディアは伝えてきました。そして4日に大関琴光喜と大嶽親方が解雇されたことを、様々な英語メディアが伝えました。

 たとえば英『インディペンデント』紙は、「観客数の減少と、賄賂や八百長の疑惑に苦しむ」「日本の国技」が、大関解雇によって「危機に直面している」と書いています。さらに、昨年の名古屋場所で暴力団幹部が維持員席に座っていたことを説明し、「一部の内部関係者によると、この慣習は少なくとも半世紀にわたって続いてきたものだ。相撲界が非合法な世界と関わってきたことはよく知られているが」、今回の野球賭博問題でついにNHKと警察が動いたため「日本相撲協会はついに対応せざるを得なくなった」と解説しています。

 他の英語メディアも、おおむね同じ論調です。相撲界と暴力団のつながりは今に始まったことではない、公然の秘密だったと。ちなみに、英語世界でベストセラーとなった『Freakonomics』(邦題『ヤバい経済学』)で、シカゴ大学の経済学教授が統計的に「日本の相撲では八百長がある」と検証して以降、これが英語世界では「常識」となっています。だから「力士が暴力団とつながって野球賭博をしていた」と明らかされるに至っても、どの記事も「うん、そうだろうね。だろうと思ってたよ。やっと表沙汰になったんだね」というような態度なのだと思います。

 米『ニューヨーク・タイムズ』紙のマーティン・ファクラー東京特派員は、まず短めの記事で、「ここ日本では、相撲が非合法な世界(underworld)と結びついていることはもう長いこと、公然の秘密だった(poorly kept secret)のだが、そのつながりが思われていたよりも大きそうだと分かって国民の怒りを買った」と説明しています。

 同記者はさらに、「相撲界と非合法世界とのつながり、限度を超える」という詳しい解説記事で踏み込んで、「今回のスキャンダルは、閉鎖的で、伝統に縛られ、特別な伝統文化の世界だからと部外者の監視を免れてきた相撲が、日本全体の変化からいかに取り残されてきたかを、改めて強調するものだ」と指摘。かつては暗黙の内に存在を認められ栄えてきた「闇の世界」を、日本社会はいま遠ざけようと努力している。なのに相撲界は、逆だと。景気低迷で企業スポンサーや観客数の減少に苦しむ相撲界は、収入源となる暴力団との「関係を強めようとしていた様子で、多くの日本人は愕然としている」とも。ゆえに相撲界は「日本の経済衰退による変化に対応しようとしない、もしくは対応できない、ほかの日本の組織・企業と同様だ――と批判されている」のだと。

 この最後の、「日本の経済衰退による変化に対応しようとしない、もしくは対応できない、ほかの日本の組織・企業と同様」という論調は、英『エコノミスト』誌も展開しています。「このスキャンダルは、現代日本について多くのことを語っている。現代日本は、暗黙の非公式ルールで動いてきた国から、はっきりした正式のルールで動く国へと、幅広い変革を遂げようとしている。世間の目からずっと閉ざされてきた色々な存在が、説明責任を問われるようになっている。たとえば政治の世界では、民主党がこうやって昨年、50年にわたる自民党の支配を終わらせた。同様に民主党は次は官僚組織を無力化しようとしている。経済の世界でたとえば、上場企業は独立役員を置き、年間報酬が1億円以上の役員の氏名と報酬額を開示するよう義務付けられたのも、この変革の一端だ」と。

 つまり日本は、「伝統だから」ですべてが通ってしまうような神秘的な「エキゾチック・ジャパン」ではなく、国外から見ても「分かる」国になるべく変化しているのだという解説です。その文脈で同誌は、角界スキャンダルを次のように読み解きます。「賭博スキャンダルは要するに、改革に抵抗し続けてきた日本相撲協会をよりプロフェッショナルで現代的な集団にしようという動きに関連している。閉鎖的で偽善的、かつ問題行為を黙認しているように見える相撲協会に、国民は辟易としているのだ」と。

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加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]

1965年東京生まれ。小学校時代を米ニューヨークで過ごす。英オックスフォード大学修士号取得(国際関係論)。全国紙社会部と経済部、国際機関本部、CNN日本語版サイト編集者(米大統領選担当)を経て、現職。2008年米大統領選をウオッチするコラム執筆。09年4月に「ニュースな英語」コラム開始。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」。

 


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