「幸せ食堂」繁盛記
【第二十二回】 2016年2月22日 野地秩嘉

ボリュームたっぷりのご飯を、
昭和の香りの中で味わう
溜池の超人気「喫茶店」は、働く者たちの楽園だ

屋上にブルドーザーがあったビル

 喫茶店、洋食店のシーザーは溜池交差点のコマツビル地下にある。コマツビルといえば1991年まで屋上に黄色いブルドーザーが載っていた。わたしはてっきり本物だと思っていたけれど、シーザーの料理長、吉田治に訊ねてみたら、次のような答えだった。

「あれ、模型ですよ。本物よりずっと大きいもの。入ったことあるんだ。なかは会議室になっていたの」

 同店の創業は1973年。ビルが建てられてから50年だから、完工の7年後に入居したことになる。

「朝の8時からやっていて、夜は午後7時までです。ランチの時間が長いのと、客が多いのが特徴かな。ランチタイムは午前11時から午後4時まで。その間に200人は来ます。うちは詰め込んで80人しか入らない店ですから、昼の間はずーっと満席ですね。

 常連の人が多いですね。コマツさんは会長、社長から新入社員まで、うちに来たことのない人はいないと思う。でも、人数としてはNTTドコモさん、スター銀行さんが多いかな」

 シーザーのランチはおかず2品と大盛りのご飯が標準だ。おかず2品もたとえば豚肉のしょうが焼きとチーズミートコロッケのようにかなりボリューミーなそれが出る。

 ふたたび吉田治の話。

「ご飯は普通盛りで260グラム。パスタ類は茹であがった重量が300グラムくらい。テーブルに運んでいったら、あーっと驚いた声を出す人もいます。でも、大盛はうちの店のポリシーです。だって、ご飯を食べておなかいっぱいにならないと、寂しい気分になるでしょう。うちはお客さんには満腹してほしいんです」

 それにしても量は多い。そのうえ、ご飯の量を2倍にするダブル、3倍にするトリプルという注文もできる。

 たとえばカツカレーは1100円だ。

「ご飯をトリプルにしてください」

 そう注文したとする。吉田シェフは260グラムの3倍の780グラムのご飯を皿に盛る。とんかつが1枚だと「ご飯とのバランスが悪いから」、とんかつも増やす。さらに、カレーはご飯をすべて覆うようにかけまわす。そのため、巨大皿に、ご飯とかつとカレーの海ができてしまうのだが、それでも体育会の学生は嬉々として平らげる。

 しかも、値段はご飯の追加分しか取らない。太っ腹な店である。 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

「「幸せ食堂」繁盛記」

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