長く使えば、キモノは「合理的」で「エコロジー」な商品だったのだが、経済成長著しいころは、それがまったく「売り」にならなかった。そんなうんちくを語ろうものなら、「貧乏くさい」と言われそうなほど、ヒト・モノ・カネが溢れていたからだ。

 だが、景気は人の心も左右する。上野さんらにとっては幸いなことに、ここ数年、メンテナンスをしながら、より長くキモノを着たい、という人が増えてきた。仕立てだけではなく、キモノの生産工程のあらゆる段階で、こうしたお直し需要が急増しているという。

 お直しばかりはまとめて海外に持っていく訳にもいかず、国内の業者の出番になる。

 危機こそチャンス、である。

製造業からサービス業へ変貌?
「和裁教室」で生き残る

「絶滅危ぐ種、を追いかけているんですか? それはおもしろそうですね」とにっこり笑うのは、和裁士の山本秀司さん(42)だ。横浜駅から歩いて7分の場所で、同じ和裁士である妻の直美さんと「山本きもの工房」を経営している。

 工房では、数人の女性たちが黙々と針仕事をしていた。さらしで縫い方の基本を練習中の人もいれば、すらすらと長襦袢を縫っている人もいる。みな、和裁を習いにきた生徒さんたちだ、という。

「会員登録している生徒さんは90人います。下は高校生から上は70代まで。なかには男性も4人います。ほとんどが、針と糸を持ったことがない、初心者です」

 素人向けの教室を開くきっかけは1999年、趣味で和裁を習いたいと仕事場にやってきた、ある中年女性のこんなひとことだった。

「祖母のように自分でキモノを縫うのが、私の夢でした」

 山本さんはそのころ、和裁のシゴトには未来がない、と感じていた。売上は毎年10%ずつ減っていた。全国和裁技術コンクールで内閣総理大臣賞をとるほど技術があっても、その腕をふるうシゴトがない。

「何を読んでも、どんなデータを見ても、見通しは明らかに暗い。将来的に家族を養えるシゴトではなくなるだろう、と感じていました」