副業を始めることも真剣に考えていた。なのに、目の前の女性は、そんな自分のシゴトに夢を感じると言う。最初から教室にしようと思ったわけではなく、ただ、「やってみよう」と思った。そのころ、同じ職場で和裁のシゴトをしていた父親には猛反対されたが、何かひとつでも、心の支え、が欲しかった。

 かたわらに生徒を座らせ、針の持ち方から教える。必然的に、自分がどうやって和裁をおぼえたのか、を振り返るようになった。なにが難しくて、どう説明すればわかりやすいか、のコツも、少しずつつかんだ。

 そのうちに、「私も教えて欲しい」という人が現れた。それが、1人、2人、と増えていく。最初は自宅で細々と教えていたが、それでは手狭になり、6年半前に現在の場所を借りた。生徒が急に増え始めたのも、その頃からだという。

 工房の技術者は、山本さん夫妻とお弟子さん2人の計4人だ。お弟子さんのうち1人は、もともと教室に通っていた生徒さんだという。

 取材をしている間にも、予約を入れた生徒さんが時間をおいてやってきていた。決まった教材はなく、自分の縫いたいものを自分のペースで縫う。わからないことがあれば、そのつどスタッフに訊ねる。そのため、一度に教室に入れるのは、6人までだ。

「針仕事に没頭していると、ストレス解消になるんです」

 生徒の多くが、そんな感想を口にする。主婦だったり、教師だったり、ITのプログラマーだったりと、職業もいろいろだ。

 山本きもの工房には現在、大口の取引先はひとつもない。「加工料を下げろ」と要求されるたびに断っていたら、とうとう注文がゼロになったという。今は教室の収入と個人客からの依頼だけで、ビジネスが成り立っている。

「このシゴトは、なくならないと思いますよ」

 山本さんではなく、生徒のひとりにそう言われた。

「やってみると、すごく気持ちいいですから」

 時代遅れの製造業かとばかり思っていたら、巡り巡って最先端のサービス業にもなっている。和裁の粘り、おそるべし。