橘玲の日々刻々 2016年2月29日

いっそのこと覚醒剤やヘロインを合法化した方がいい
[橘玲の日々刻々]

 元有名野球選手が覚醒剤所持・使用容疑で逮捕されました。報道によれば選手時代から覚醒剤を常用していた疑いもあり、近年は完全な依存状態になっていたようです。

 健康への影響がタバコよりも少ないマリファナが欧米で解禁されつつあるのに対し、覚醒剤(アンフェタミン)やヘロイン、コカインなどはハードドラッグと呼ばれ、強烈な快感と強い依存性から法できびしく取り締まるのが当然とされてきました。ところがノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者ミルトン・フリードマンやゲイリー・ベッカーらは、マリファナはもちろんハードドラッグも合法化して酒やタバコと同様に市場で取引できるようにすべきだと主張しています。

 彼らはもちろん、ドラッグの危険性を軽視しているわけではありません。しかしアメリカにおけるドラッグ・ウォーズを振り返るなら、規制や取締りはほとんど効果がなく、麻薬組織はあいかわらず莫大な利益をほしいままにし、供給側の中南米の国々の治安を破壊しています。また近年のきびしすぎる量刑は、巨額の税金を投じて末端のドラッグディーラーを大量に刑務所に収監することで、黒人やヒスパニックなどマイノリティのコミュニティを危機に陥れました。黒人女性の未婚率や母子家庭の割合が極端に高いのは、若い黒人が刑務所にいるからなのです。

 米国での調査では、ハードドラッグ体験者のうち95%は中毒になる前に使用をやめており、依存症になるのは5%程度です。このひとたちはさまざまな理由から依存状態になりやすく、ドラッグを禁止すれば非合法な手段で手に入れようとするか、大量飲酒など他の有害な行動をとるようになります。医師のなかにも、ドラッグよりも酒(アルコール)の方が有害だと考えるひとはたくさんいます。だとすれば、ハードドラッグを合法化し、法の下で製造・販売を管理して、そこからの税収を依存症への治療に充てたらどうでしょうか。

 麻薬を合法化すれば地下組織は壊滅し、刑務所に収監される犯罪者の数も激減し、高価な麻薬を入手するための衝動的な犯罪も減るでしょう。麻薬供給国の治安は劇的に改善し、アフガニスタンのタリバーンのようなテロ組織がケシを資金源にすることもできなくなります。麻薬依存症はアルコール依存症などと同じく、犯罪ではなく治療の必要な病気として扱われるべきです。

 依存症を引き起こすのは、酒や麻薬だけではありません。セックスや恋愛でも脳内にドーパミンなどの快楽物質が分泌されることがわかっており、セックス依存症や恋愛依存症が社会問題になりつつありますが、これを法で禁止すれば国民がいなくなってしまいます。過激なナショナリストはアイデンティティを国家に依存していますが、国家が国家を禁ずることはできません。IS(イスラム国)のテロが明らかにしたようにもっとも危険な依存の対象は宗教でしょうが、神を違法にすることもできません。

 けっきょくのところ、すべてのひとが、多かれ少なかれなにかに依存して生きているのです。私たちは、そんなに強いわけではありません。

 だとすれば、必要なのは特定の依存症患者を袋叩きにすることではなく、彼らが社会復帰できるよりよい仕組みをつくっていくことでしょう。このような視点があれば、退屈な芸能ニュースにも多少は深みが出ると思うのですが。

参考:ゲーリー・S. ベッカー『ベッカー教授の経済学ではこう考える』

『週刊プレイボーイ』2016年2月22日発売号に掲載

 

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、歴史問題、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ『橘玲の中国私論』が絶賛発売中。最新刊は、『「読まなくてもいい本」の読書案内』(筑摩書房刊)●橘玲『世の中の仕組みと人生のデザインを毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中) 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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