経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第72回】 2016年3月8日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

なぜ「パソコン通信」は居心地のいい空間を作れたのか

【吉田純氏×武田隆氏対談3】

「公共圏」とは何なのかを明らかにし、今後の可能性を模索する対談、第3回。いよいよ話はオンライン上に立ち現れる新たな公共圏がテーマとなっていきます。これから目指すべきオンラインコミュニティのお手本は、じつは1980年代後半から1990年代にかけて隆盛を誇った「パソコン通信」にありました。自身もパソコン通信を運営していたという社会情報学者の吉田純先生が、当時を振り返りつつ現代の状況に焦点をあて解説します。

インターネット前夜、「パソコン通信」があった

吉田純(よしだ・じゅん)
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。京都大学教育学部卒業。文学博士(京都大学)。専攻は、社会学、社会情報学。「情報化」「ネットワーク 化」を軸とする現代社会のマクロな構造変動と、ミクロな人間の行為/コミュニケーションの変容との関係について研究。現在とくに、インターネット 社会における「公共性」(コミュニケーション空間としての「公共圏」や知的共有財産としての「公共財」)をめぐる問題を中心的なテーマとしてい る。主な著書に『インターネット空間の社会学 ――情報ネットワーク社会と公共圏』(世界思想社) 『情報秩序の構築』(早稲田大学出版部、共著)『応用倫理学講義3 情報』(岩波書店、共著)「情報公共圏論の再検討――アーレントの公共性論を手がかりとした試論――」(早稲田社会学会『社会学年誌』46号)『都市とは 何か』(岩波書店、共著)等。2001年テレコム社会科学賞、日本社会情報学会研究奨励賞を受賞。

武田前回までに、「公共圏」とは私的な生活、政治、経済のいずれからもある程度の距離をとった、パリに現れた「カフェ」のような、言わば「風通しのいい空間」であるという話がありました。そして吉田先生は、オンラインコミュニティがこれからの公共圏の新しいかたちを担っていく可能性があるとお考えなのですね。

吉田 はい。オンライン上にあるコミュニティが、その可能性を大きく拡大したことは間違いないでしょう。

武田 どういった点から、そうお考えになったのでしょうか。

吉田前々回、ハンナ・アーレントが“What”と“Who”という2つの疑問詞で、人間の見方を分けたという話をしました。

武田 “What”は職業や年齢あるいは民族といった人間の属性、また、“Who”は世界中でただ一人のユニークネスを持った存在、ということでした。市場経済の中で近代的な市民は、“What”としての役割を求められるというお話もありました。

吉田 そうです。インターネット、とりわけ、オンラインコミュニティ上には、“What”で表される自分を取り巻くさまざまな属性を離れ、世界に唯一人の“Who”として関わりあうことができる可能性がある。

武田 時間や空間、ときには立場の制約を取り払って発言できる環境において、その人そのものが現れやすくなるということですね。こうしたオンラインコミュニティは、パーソナルコンピュータが登場して、パソコン同士が通信でつながるようになってから立ち現れた空間と考えていいのでしょうか。

吉田 そうですね。少なくとも日本でこうしたコミュニティが一般化したのは、パソコン通信が出てきてからです。

武田 いわゆる「パソ通」ですね。パソコンとホストコンピュータのサーバとの間で、電話通信回線などによって直接データ通信をおこなう。インターネット前夜に隆盛を誇ったサービスです。NIFTY-ServeとNECのPC-VANが2大パソコン通信でした。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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