給料は下がることもある、
と同意できれば上げられる

桜井 それにしても、日本人は率先して意見をいったり議論したりというのは得意じゃないですから、自由に言い合える風土ができあがっているというのは凄いですね。

星野 議論してもらうために、会社側から情報も出すようにしています。会社の情報をすべて公開し、提案した内容に対するお客様の満足度なども、すべて伝えています。今ちょうど各地でやっていますが、年に一度は「全社員研修」として、現場で働くスタッフに対して、もう少し大きな視点から観光業の全体像や競合の状況、それに対して私たちがどういう戦い方をするのか、といった話をしているんです。ただし、あくまでエンタテインメントと位置づけているので、私が一方的に話すだけでなく、その後で懇親会の場を設けて、総支配人以下、マネジメント側がエンターテナーになってスタッフに楽しんでもらう機会にしています。

桜井 そうしたお取り組みで組織の一体感も生まれるんでしょうね。社員のみなさんが自由に発案してトライ&エラーをみなで共有するというのは素晴らしいですが、それをどのように評価し報酬を決めておられるのですか。

給料は下げられないと思うから上げられない?!<br />現在の貢献度に報いる評価・報酬制度の逆転発想基本的には現在のパフォーマンスを評価する点では共通だが…

 実は旭酒造でも昇給制度を変えたばかりなんです。右肩上がりで定年まで給料が上がっていくのではなく、貢献している若い人に手厚く出せるように40歳までの昇給率を高くしました(年率3%で60歳まで基本給が増える旧制度を廃し、同5%で40歳で基本給が最高になり、その後は横ばいとなる新制度に2016年2月から移行。生涯賃金は従来より5%増える。正社員110人のうち約9割が対象)。

星野 私たちも基本的には潜在能力でなく発揮した能力、現時点のパフォーマンスを評価するという概念で報酬を決めています。旭酒造さんの新制度というのは特に若い層の働きに対して十分報いていなかった点を改めて一律昇給を止められたということだと思うのですが、私たちも現在の貢献度をお金に換えるという考え方までは同じで、給料が上がることもあるけれど下がることもあるという制度にしています。

 というのも、90年代の前半に、なぜこれほど人材確保に困っているのに自分は給料を上げたいと思わないのだろう、とすごく考えたのです。一番大きい理由は、いったん上げると下げられなくなるから経営者は給料を上げることに慎重になるのだ、と気づきました。

桜井 下げちゃうんですか。その発想はあまりなかった。