【斉藤】いい問いかけをするのは、正解を語るより難しいんです。先生方に、本当にいい問いかけを発するスキルがないといけません。生徒一人ひとりのことをよく知らないといい授業ができないんです。

イェールと東大の入試、「決定的に違う点」とは?「教師自身にも『問いかける能力』が必要になる」(津田氏)

【津田】そうすると授業の人数も限られてきますから、全部に影響を与えてきますよね。

【斉藤】となると教育にかかる費用がますます嵩んでしまうという負の側面も生じかねません。事前に再分配の仕組みも含めて公共政策をつかさどる側が考えていかなければならないでしょうけれど……。

人生は問いかけ――だからいい問いかけをするしかない

【斉藤】ハーバードでMBAをとったバングラディッシュ系アメリカ人のサルマン・カーンが始めたカーン・アカデミーというものがあります。「to provide a free, world-class education for anyone, anywhere(世界レベルの教育をどこに住んでいるどんな人にでも無料で提供する)」という考え方をする教育サイトで、絶対に課金しない主義です。

日本でいえば低料金のオンライン学習塾がありますが、単なる知識の伝授・詰め込みの部分は、そういう安価に提供できる方法を用いることでコストを下げていく方向性もあります。

一方、「なぜ?」と問いかけて「考える」機会をどの子にも用意するというのは、義務教育の場でやらざるを得ないですよ。僕はそういう意味で、義務教育をもっと少人数でやったほうが先進国らしい教育になるという考えです。

マイケル・サンデルの「白熱教室」が日本でウケたのは、みんな問いかけに飢えていたからでしょう。人生は結局、問いかけの連続でしかないと思うのです。いい問いかけをする練習をいろいろな場でやっていくことが、幸せな人生を送るうえで非常に大事だと思います。

【津田】そうするとやっぱり、「そもそも今の先生にそれができますか?」という疑問が出てくるでしょう。

イェールと東大の入試、「決定的に違う点」とは?(左)津田久資氏 (右)斉藤淳氏
J Prep斉藤塾(自由が丘校)にて撮影。

【斉藤】そこはたしかに難しい問題です。

ただ、先生方も「子どもたちの未来に責任を持ちたい」という気持ちが少しでもあれば、時代の要請に従って徐々に適応していかざるを得ないでしょう。社会は急激に変化するにしても、人間のマインドセットは徐々にしか変わりません。それでも累積的には、日本人の価値観や思考法も相当に変わっていく、変わっていかざるを得ないと予想しています。

国民性で日本人を語りたくはないんですが、基本的にまじめに忠実に任務を履行しようとする先生は多いと思います。

何よりも入試の仕組みが変われば、これに適応しない先生や学校が徐々に淘汰されてしまいます。なので、長期間の累積的な変化はかなり大きなものがあると期待しているんです。

(対談おわり)