フィリピン 2016年3月14日

フィリピン大統領選がいよいよ佳境に
「孤児」から「ダーティハリー」まで、超個性的な有力候補者たち

今年5月9日に予定されているフィリピンの大統領選挙。様々な経歴を持つ候補者たちが、数で圧倒する貧困層を取り込むために、ショーのようなパフォーマンスを繰り広げているという。その戦況はいかに。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する、フィリピン在住19年の志賀さんが、その現況をレポートします。

 フィリピンでは5月9日に正副大統領選挙が行なわれる。大統領の任期は6年で再選は認められていないので、ノイノイ・アキノ現大統領は退任し、新たな大統領が選ばれることになる。

 フィリピンの選挙は、アメリカと異なり、大統領と副大統領が別々に選出される。前回の選挙では、アキノ大統領はロハス前内務自治長官を副大統領候補に指名したが、ロハス氏はあえなく落選。副大統領に選ばれたのは、エストラダ元大統領と組んだ元マカティ市長のビナイ氏で、アキノ大統領にとっては政敵が副大統領になったわけだ。

 今回の大統領選では、アキノ現大統領を除くロハス氏、ビナイ氏、エストラダ氏がそろって立候補している。

 国民の直接選挙で選ばれる大統領選挙の行方は、数で圧倒する貧困層をいかに取り込むかにかかっており、いわば人気投票の様相を呈す。選挙運動が解禁された2月9日には、各候補はスコーター(スラム)のあるキアポ、トンド、マンダルヨンなどの広場あるいは大通りを遮断して特設ステージを設置し、人気タレントなどによるショーまがいのパーフォーマンスを繰り広げた。

大通りを仕切って作った特設ステージに数千人の聴衆が集まっている。その目的は有名タレントによるショーだ(2010年の大統領選のもの)【撮影/志賀和民】

大混戦を繰り広げる個性豊かな候補者たち

 今回の有力候補はビナイ副大統領、ロハス前内務自治長官に加え、ポー上院議員とドテルテ・ダバオ市長、サンチャゴ上院議員だが、支持率上位のポー、ビナイ、ロハス、ドテルテの四つ巴の混戦といえる。ちなみにドテルテ候補はダバオ市長への立候補を表明していたが、その後、代理出馬の名目で大統領選に加わった。

●グレース・ポー候補

 支持率1位のグレース・ポー上院議員は2004年の大統領選でアロヨ元大統領と一騎打ちを演じた国民的人気俳優、故フェルナンド・ポー・ジュニア(FPJ)の娘。前回の上院選でトップ当選し、3年の任期を残して大統領選に出馬した。政治の経験は4年だが、清廉なイメージと亡父の人気で高い支持率を誇る。

 教会前に捨てられていた孤児で、FPJと、同じく人気女優の妻スーザン・ロチェスの養女として育てられ、国立フィリピン大学からアメリカに留学した才媛だ。米国在住歴のため国内居住期間が選挙規程に足りないとして昨年12月に中央選挙管理委員会から出馬資格を取り消されていたが、3月8日、最高裁判所が候補者の資格を認定したことで晴れて大統領選に復帰した。

 ポー候補は庶民の信仰を集めるキアポ教会の前で7000人の支持者を集め、副大統領候補のエスクデロ上院議員、12人の上院議員候補らと演説を行ない支持を訴えた。

●ジェジョマール・ビナイ候補

 前回の調査で支持率1位だったジェジョマール・ビナイ氏は、1989年以来マカティ市長として発展に寄与した実績で、6年前に副大統領の地位を獲得した。しかしマカティ市長時代の汚職疑惑や、息子の現マカティ市長らの腐敗を現政権に攻撃され、きわどい状況にある。

 ビナイ候補はマンダルヨンの大通りを遮断して特設ステージを設置し、1万8000人の聴衆に支持を訴えた。音楽ライブで聴衆を楽しませることは欠かせず、ボクシング界の国民的英雄パッキャオ下院議員(今回は上院議員に挑戦)も応援に駈けつけた。

●ロドリゴ・ドテルテ候補

 ロドリゴ・ドテルテ氏は20年以上、市長としてミンダナオ島最大のダバオ市を支配し、「フィリピンの殺人都市」と呼ばれた治安を劇的に改善させ、「もっとも治安の良い都会」との定評を築き上げた。その方法は、本人が「自分が大統領になったらマニラ湾が死体で埋まるだろう」と明言するような、犯罪者に対する徹底した粛清だ(都市伝説かもしれないが、私設の暗殺組織を使って犯罪者を処刑していると信じられている)。

 国際人権団体などから激しく非難されているが「私は自身がテロリストであることを認める。しかし私が威嚇するのは麻薬密売人、誘拐犯、強奪を働くギャングやほかの犯罪に手を染めている者に限る。ここへ来られるなら来てみろ。私がとどめを刺してやる」と述べたのも有名な話だ。

 ダーティハリー並みの豪腕ぶりに支持者も多く、「東洋一のスラム」トンドで行なわれた演説には3000人の聴衆が集まった。私がヒアリングをした限り、周囲のフィリピン人はドテルテ候補を支持すると言っている。はっきりした政治目標を表明・達成できない現政権に比べて、「犯罪撲滅」という明快な主張は実にわかりやすい。彼が大統領になれば、「危険、汚い」というフィリピンのイメージも向上するに違いない。

●マヌエル・ロハス候補

 4番目の候補、マヌエル・ロハス前内務自治長官はロハス元大統領の孫。前回の大統領選ではアキノ現大統領と組んで副大統領に立候補したがビナイ候補に敗れた。今回はアキノ大統領の後継者として立候補、毛並みは抜群だがインパクトがいまひとつだ。

 ロハス候補は支持基盤のビサヤ地方で、アキノ大統領をはじめとする政府要人が駆けつけて支持を訴えた。

●ミリアム・サンチャゴ候補

 5番目の候補者、ミリアム・サンチャゴ上院議員は1992年の大統領選でラモス元大統領と争ったが、今回はマルコス上院議員とペアを組んで大統領に再挑戦している。ちなみにマルコス上院議員は、かのマルコス大統領の実子だ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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