「世界の工場」ともてはやされた中国に日本企業が大挙して進出したのは一昔前の話。今では潮が引くようにして多くの工場が撤退し、中国駐在の日本人数も激減した。だが、こうした潮流に反し現地にしっかり根を張る日本企業もある。進出ブームから15年、中国企業をパートナーに躍進する日本の中小企業を取材した。

日本の中小部品メーカーが中国でなぜ成功したのか総経理の佐野文彦氏(左)と副総経理の陸偉国氏(右)

 訪れた先は、以前当コラムでも取り上げた、栃木県に本社を持つカンタツ(株)の中国工場「関東辰美電子」だ。上海の浦東空港から南西へ車で1時間半の浙江省平湖市に生産拠点がある。

 そこで総経理を務めるのが佐野文彦氏(54歳)だ。中国に15年の駐在歴を持つベテランの佐野氏は、開口一番こう切り出した。

「おかげさまで、2015年は前年比で2.4倍の売上増となりました」

 同社は2001年に中国浙江省に生産拠点を設けた。進出当初は日本の大手完成品メーカーの外注としてビデオ用メカユニットの部品加工と組立を行っていたが、このメーカーがカメラ付き携帯電話を始めたことをきっかけに、カメラのマイクロレンズの生産を手掛けるようになった。現在は生産の100%をスマートフォンのカメラレンズに特化し、量産体制を確実なものにしている。

中国スマホメーカーとの
取引で売上が飛躍的に伸長

 2.4倍増という躍進のきっかけをもたらしたのは、中国のスマートフォンベンダーとの取引だ。これまでは日本や韓国を中心とした納入だったが、2015年は中国最大手のスマートフォンメーカーを取引先にしたことで、売上高が飛躍的に伸長したのだ。

 このメーカーはスマホベンダーとして世界3位のシェアを持ち、そのスマホは世界の隅々にまで普及する。携帯電話基地局などの通信設備では世界2位に君臨。研究開発には国家予算もつぎ込まれ、特許申請件数は4万7000件(2013年末)にものぼる驚異の成長企業である。

 そのメーカーがカンタツに白羽の矢を立てた。高画素製品を得意とするカンタツを指名した構図には、北米大手を主要取引先にする台湾のラーガンを回避して、シェア奪取に攻勢をかけようという戦略すら透けて見える。