「幸せ食堂」繁盛記
【第二十三回】 2016年3月15日 野地秩嘉

目黒・柿の木坂に、小体なれどキラリと光る
実力派の中華料理店を発見!

席はわずか7席という店

 東急東横線・都立大学駅から駒沢通り方面へ向かう。コンサートホールや図書館が入っている「パーシモンホール」の向かいに小さな店がある。店のエントランスには白い布が垂らしてあり、赤い色の飾り文字で「Tonoo's」とある。

 何と書いてあるのか、最初は読めない。また、「トノーズ」と読めたとしても、どういった料理の店なのかはすぐにはわからない。よく見ると、店名の下に「チャイニーズ・アンド・ハワイアン・フード」とも書いてある。いったい、何なのだろう?

 店に入っていって、アロハシャツを着た主人の外崎裕太(とのさき・ゆうた)に訊ねてみることにした。彼は答えた。

「うちは普通の中華ですよ」

 店内には八角など、中華の調味料のにおいが漂っていた。なるほど中華料理の店だなと納得した。「トノーズ」の店名も、名字である「トノサキ」のトノから取ったのだろう。しかし…、ハワイアンとはどういう意味なのだろうか?

「ああ、あれですか。僕はハワイが好きなんです。子どもが生まれる前は妻とふたりでよく旅に行ってました。ハワイが好きだから、ハワイの料理もやってみようかと思ったんです。でも、結局はハワイのビールを仕入れたくらいで、いまは中華料理のメニューだけなんです」

 笑いながら、彼は付け加えた。

「うちの奥さん、自由が丘でロミロミの店をやっているから、そこが少しハワイと関係ありますね」

 トノーズは四川、上海料理が中心だ。

「出身は青森です。最初は龍鳳閣という店で修業をして、その後、横浜の中華街や稲城のファミリー向きの店など、高級店から庶民向けの店まで、さまざまなところで働きました。3年前に、ここを開店する直前は自由が丘の豆豚食堂で店長をやっていました。それはサービスの勉強をしたかったからです。うちの店はカウンターが3席とテーブルがひとつ。7席の小さな店です。でも、店は小さいけれど、仕事はちゃんとやっています」

 外崎の言う通り、トノーズはランチでも24種類の麺類やご飯ものを置き、加えて2種類の日替わり定食がある。それをたったひとりでやっている。

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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