「成功した企業が、みずからの成功に呑み込まれる」
イノベーションを起こそうと息巻く企業やスタートアップにとって、これほど不吉な言葉はないだろう。だが、シャープエアビーアンドビーも、まさにみずから成し得た成功で、みずからの首を絞めてしまった。
爆発的成長を遂げているまさにそのピークに、突如として市場飽和を迎え、顧客に一斉にそっぽを向かれる――ビッグバン・イノベーションの第3ステージ「ビッグクランチ」への移行はあまりにも急激で、企業にとっては命取りともなりかねない。苦しい闘いを余儀なくされている日本家電業界について、『ビッグバン・イノベーション』著者2人はこう述べる。

わずか10週間の製品寿命
ソニー「エクスペリアZ」の受難

「もしiPhoneに採用されたら?」<br />で見抜く「生き残る企業」の条件ビッグバン・イノベーションの4つのステージ。爆発的成長期のあとに待っているのは、急激な落ち込み、衰退である(『ビッグバン・イノベーション』96ページ)
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イノベーター企業がつい見過ごしてしまいがちなのは、熱しやすく冷めやすい顧客に、一夜にしてそっぽを向かれるという危険性である。よりよく、より安い選択肢が目の前に現れると、顧客はすぐに、時にはその場で乗り換えてしまう。かつて何年も何十年もかけて飽和した市場は、今ではほんの数ヵ月か数週間で飽和する。

 めまぐるしいスピードで変化する日本の家電業界において、モバイル機器メーカーは、携帯電話通信事業者に急き立てられて、数か月ごとに新しいモデルを発売する。低迷するエレクトロニクス事業の立て直しを図るために、モバイル領域への路線変更(ピボット)を目論むソニーにとって、製品ライフサイクルの短命化は大きな重圧である。

 ソニーが2013年2月に発売したエクスペリアZは、発売後わずか10週間で60万台以上を売り上げるヒットとなった。だが、その後すぐに売れ行きはストップし、同年5月には生産を終了する。他国の市場に投入する間もないままに、ソニーは日本の消費者に大急ぎで新製品を提供しなければならなくなったのだ。

 このとき、ソニーが直面した状況はさほど珍しくはない。指数関数的技術が主導する市場において、破壊的製品やサービスのライフサイクルは短く、ほろ苦い。(『ビッグバン・イノベーション』236ページ)

 それでは、どのような姿勢で臨むべきなのだろうか。2人は、あるガラスメーカーを例に挙げて、こうメッセージを送る。「たとえiPhoneに採用されようが、次の一手を打ちつづけろ」と。