濃密な近所づきあいの
下町高層長屋を再び

地上14階、地下1階に生まれ変わったザ・パークハウス上野

 新しいスタートに際して森瀬理事長が管理組合員らと確認したのは、「全てを公開して透明性を堅持、公正に事を進める」という基本方針だ。まずは先輩格の同潤会関係者や、学識者、建築家などに相談、コンサルタントは公募とし、プランを提出した8社の中からUG都市建築を選んだ。

 検討の上、UG都市建築は建替えを提案。複雑だった登記問題については、測量し直し、現状の土地評価額などを反映させながら、不動産鑑定士や弁護士などに判定してもらい、新たな評価基準として慎重に住民に提案していった。

「公正な第三者の判定を得たことで、事態が好転しました。下町の人は権威に弱い(笑)。事業協力者は三菱地所レジデンスに決まりました」(森瀬氏)

 そこからはトントン拍子だった。「どんな建替えにするか、区分所有者全員に詳しく希望をお聞きするのですが、戸別訪問せずとも皆さん気軽に集会室に来てくださり、3ヵ月程度かかるヒアリングの予定が、1ヵ月半で済みました」(UG都市建築・内山宜之氏)

 そして建替え工事が始まり、15年夏に竣工。最初は「安易な建替えには反対」という姿勢だった森瀬氏だが、マンションが新しくなった今、この地に戻り、再び温かな人の絆を結ぶ取り組みを始めた。

「上野下アパートは昭和から平成にかけて、下谷地区のシンボル的存在で、団塊の世代の子どもたちと親たちが、向こう三軒両隣と助け合いながら、濃密な近所づきあいが繰り広げられた下町の高層長屋でした。ここで再び絆を結び、コミュニティを再生させていきたいと思っています」(森瀬氏)

 お年寄りの孤独死など、昔は考えられなかった。子どもたちも近所の大人が皆で叱って育てたと、森瀬氏は述懐する。建替え争議のさらに昔、この地にあった温かなコミュニティを今の時代に即した形でよみがえらせる方法は、目下模索中。まずは管理組合とは別に、自治会(「下町の絆」再生クラブ)の設立から着手したところだ。

 同じ「同潤会育ち」の幼なじみからも、新マンションに戻るという、うれしい連絡が入っている。昔を知る人たちが新たな仲間とつくるコミュニティは、時代を超え、より強い紐帯(ちゅうたい)で結ばれそうだ。

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