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アルストム買収合戦は明治維新
もっと劇的に変化していく

――対外的に、三菱重工が変わったことを印象づけた出来事の一つが、2014年の仏重電大手アルストムのエネルギー部門をめぐるGEとの買収合戦でした。国際的な大型買収の舞台に立ったことは、ドメスティック色が強かった御社にどのような影響をもたらしたのでしょうか。

 一言で言えば、「西洋文化と初めて会った明治維新」といったところでしょうか。

 世界はものすごい勢いで変わりつつあるのに、日本はいまだに20世紀の成功体験の残影から抜け出そうとしていません。グローバルで競い合っていくためには、我々はもっとドラスティックに変わるべきだという気持ちが強くなりました。

――米GEでは各業界で1位か2位ではない事業を切り捨て、高収益企業として成長してきました。GE流の経営をどう見ていますか。

 昔のGEは非常に保守的な会社でした。アメリカを代表する大きくて強い企業で固有の問題を抱えており、その意味ではかつての当社ともよく似ています。それを(前GE会長の)ジャック・ウェルチさんが一気に事業の中身を入れ替えました。そのための手段として「世界でシェア1位か2位以外は手放す」というのは一つの公平な基準であり、当時のGEにとって最適な方法だったのでしょう。

 一方、当社は、かつては約700あった製品を約500にまで減らしましたが、それでも世界シェア1位か2位に絞り込むというのは難しいでしょう。世界シェア1~3位を目指せる事業を、合計で5つぐらい持ちたいと考えています。

――GEは祖業である家電事業部も売却することを決めました。御社の祖業である造船事業も含めて、そこも聖域なくメスを入れていく考えなのでしょうか。

 公平感という点から考えて、私は聖域というものはあってはいけないと思います。聖域を設けてしまうと、聖域にいる人に甘えが生ずるし、一方で聖域にいない人からすれば不満が高まるでしょう。そのような組織は長続きできないでしょう。

 祖業であろうとなかろうと、それなりの強さを証明できれば残すべきですし、それができないのであれば、それを聖域として残すという考えは持ってはいません。

――最後に、宮永さんの座右の書は、マルクス・アウレーリウスの『自省録』(神谷美恵子訳、岩波文庫)とのことですが、同書からどのような気付きや学びを得たのでしょうか。

 本当にいっぱいあるので、語り切れません。ちょっと本を持ってきましょう(笑)。

 (そう言って社長室に行き、下の写真にある付箋だらけの本を持って戻ってくる)

――常日頃、社長室に置いているのですか。

 いえ、常に鞄の中に入れて、時間があれば、読んでいます。前に持っていた本は書き込みなどで汚れてしまったので買い替えました。この本ですでに十数冊目です(笑)。

 この本で得たことは大きく2つあります。

 1つ目は、自分が生まれてきた宿命を思い、与えられた仕事を全力でまっとうすべきだということです。世の中は思うようにはなりません。だからこそ、置かれた境遇の中で、全力を尽くして自己を高めるべきなのでしょう。

 2つ目は、自分と縁があった人たちを大事にすべきということです。親孝行や目上を敬う気持ちは当然のことです。ですが、自分よりも若い人たちに何かをつないでいく努力はさらに尊いものだと思います。

 人生というものは思うようにならないし、生まれてきた境遇を変えることはできません。しかし、その人生の中で縁があった人たちと真剣に向き合い、与えられた仕事を少しでもよいものにしたいと考えています。

 それでも仕事を成し遂げられるかどうかはわかりません。そもそも「自分はできるんだ」などと驕ってはいけません。私はこれを「前向きな諦観」ととらえています。

――御社の改革においても「前向きな諦観」を常に意識しながらやっているのでしょうか。

 はい。「まずは自分が全力で頑張るんだ」と言い聞かせています。その成果は必ずしもすぐに表れなくても、次の世代、さらにその次の世代に引き継がれていくだろうと、自分を励ましながら、改革に取り組んでいます。

(構成・まとめ/松本裕樹)

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「トップ・マネジメントの教科書」CEOとCFO その新しい関係

グローバル経済の本格化によって、歴戦のビジネスパーソンの経験と勘は裏切られる可能性が高まった。トップマネジメントは、リスクを洗い出し、測定し、定量化し、それを踏まえて経営戦略を説明できなければいけない。その際、CEOはCFOの力を借りずしては考えられない。CFOには経営陣の中で論理的な判断のよりどころとなり、CEOを補完すると同時に、戦略志向やビジネスリテラシーも求められている。新しい時代のCEOとCFOの関係はどうあるべきかを求め、取材した。

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