兄弟げんかが勃発して1年3カ月。ロッテHDのお家騒動は収束する兆しすら見えない。本誌は、ロッテ関係者から創業一族が本音をぶちまけた録音データを独占入手した。当事者の肉声から浮かび上がる真実とは。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)

ロッテ骨肉の争い、創業一族の肉声入手でわかった真実Photo:AP/アフロ、The Asahi Shimbun/gettyimages、YONHAP NEWS/アフロ

 兄弟で経営権を争っているロッテホールディングス(HD)のお家騒動。事態は泥沼化の様相を呈している。

 3月6日に開催された臨時株主総会では、現在、経営権を握る次男の重光昭夫副会長(61歳)に軍配が上がった。それでもなお、敗れた長男の重光宏之元副会長(62歳)は争う姿勢を変えておらず、戦いの土俵は6月の定時株主総会まで持ち越されることになった。

 今後の焦点は、創業者である父・重光武雄名誉会長(93歳)の判断能力になりそうだ。

 昨年12月、武雄氏の実妹であるシン・ジョンスク氏(78歳)が、健康面で問題があるとして、武雄氏の成年後見人の選定を申請。後見人が必要か否かは、ソウル大学での精神鑑定で決まり、5月ごろには結果が出る見通しだ。

 この裁判で後見人を置くのが妥当との判断が下れば、武雄氏から後継指名されたと主張する宏之氏にとって不利な材料となる。逆に、後見人不要となれば、たちまち昭夫氏が窮地に陥ることになる。

 経営が混迷を極める中、本誌はロッテ関係者より2本の録音データを入手した。これには、武雄氏、宏之氏、昭夫氏の父子3人による会話の模様が収録されている。株主総会直後の昨年7月8日と、武雄氏の誕生会が開かれた11月15日に録音されたものだ。

 報道が過熱する裏側で、創業一族の間ではどんなやりとりがあったのか。騒動の経緯を振り返りながら、会話を再現してみたい。

 騒動の発端は、昨年1月だった。突如として、宏之氏がロッテHDの取締役を解任された。

 それにより、「ロッテグループの日本部門は宏之氏、韓国部門は昭夫氏」と、兄弟で分担してきた経営体制が崩れ去った。

 当時の状況について、宏之氏は、「ロッテHDの経営権を握りたい昭夫と佃孝之社長が手を握り、父(武雄氏)に私が日本で損失を出したという虚偽の報告をした。それを信じた父が私の解任に同意した」と語っている。

 ロッテHDは、日本事業の統括会社でありながら、韓国事業を統括するホテルロッテを傘下に置いている。そのため、ロッテHDの経営権を握ることができれば、日韓のグループ全体を支配することになる。

 その後、宏之氏の説明を受けた武雄氏は一転、宏之氏支持に回った。7月3日、ソウルのロッテホテル34階にある自身の執務室で、佃社長に辞任を迫った。

「長い間、お世話になりました」。絶対権力者の変節に、佃社長は辞任要求を受け入れるよりほかに選択肢はなかった。