DIAMOND CFO FORUM

日本企業初のCFOに学ぶ実践知【後篇】
CFOは企業価値と理念の守護神である

伊庭 保・元 ソニー CFO

「ソニー・ショック」と
その後の凋落の真因

――5つ目のポイントですが、2003年1月に「委員会等設置会社」に移行します。この時、伊庭さんはすでにソニーの取締役を退任されていましたが、ややこしいことが起きます。当時、ソニーはカンパニー制でしたが、各カンパニーにCFOを設け、その上にグループCFOを置き、さらにCSO(最高戦略責任者)に報告するという複雑な仕組みにしました。案の定、その3カ月後に例の「ソニー・ショック」が起こり、凋落が決定的となります。

 これは、論理的(ロジカル)に導き出された結論ではないと思います。たしかに計数管理が厳しくなったので、CFOが戦略面に割ける時間が少なくなったことはあります。そこで、CSOをつくったのでしょう。

 しかし、CFOにとって重要なことは、ビジネスを理解することです。それと、計画を立てても環境変化や諸条件が変わってくるので、対応力があるかをたえず確かめなくてはいけません。つまり、CFOは現場に出て、事業部や営業の人たちと話をして、もっとビジネスに目を向ける必要があるのです。結局、やたらに肩書きを増やしただけになって、よけいに複雑化し混乱してしまいました。

 ソニー・ショックの後、2005年、出井会長と安藤国威社長が退任し、ハワード・ストリンガー氏が会長兼CEOに、中鉢良治氏が社長兼エレクトロニクスCEOになります。この時、社内取締役も全員辞めてしまいました。奇妙な話ですね。

 これもあまり論理的ではない意思決定でした。出井さんが「きれいな形でバトンタッチするために、みんな一緒に辞めようじゃないか」と、全員辞任にこだわって、その通りになってしまったのです。

――それは、ストリンガー氏にすれば、ありがたいというか、思うつぼでしたね。取締役会の事務局を含めて、自分に都合よく設定できますから。

 こうして、安藤さん、当時副社長だった 久夛良木健(くたらぎけん)さん(プレイステーションの父)、それにコーポレート・ガバナンスを担当していた、同じく副社長の真崎晃郎(まさきてるお)さんも辞めてしまった。ガバナンスの面では、真崎さんが辞めたことは、ソニーにとって不幸でした。

――4年後にはストリンガー氏が社長まで兼任するようになり、社外取締役を含めてエレクトロニクスもソニー・スピリットもわかっている人がいなくなっていきます。

 ストリンガー氏も、技術と技術者は大事だと思っていたでしょう。しかし、どの技術が大切で、どの技術者が将来のカギを握る存在なのかはわからなかった。平井一夫さん(現社長兼CEO)も、技術が重要なのはわかっていても、どこを攻めるのか、誰を大事にするのか、つかみ切れていない。

 ですから、取締役レベルでも、社内外を問わず、もっと技術のわかる人間を増やす必要があるのです。

――伊庭さんの持論に、「CFOは企業価値の番人」というのがあります。この「企業価値」は何によって測るのでしょうか。

 株主価値(時価総額)のほか、非財務的価値も含めるべきです。イノベーティブで魅力ある商品やサービスを生み出す力、品質、ブランド、マーケティング、就職人気度、CSR(企業の社会的責任)、トップの社会的プレゼンスも含まれるでしょう。

 このように、企業価値は財務的評価と非財務的価値を総合したものです。そして、企業価値の源泉は企業理念です。ソニーでいえば、ソニー・スピリットの原点である「設立趣意書」に遡ることができます。

 CFOは、企業理念に照らし、また企業理念を実現するための経営戦略に従って、経営資源を適切に配分し、そして企業価値が向上しているかどうか、評価することが役割ですから、「企業価値の番人」といえます。

――その企業理念に裏づけられた企業価値は、どう発展させればいいのでしょう。

 盛田さんの言い方では、ビジネスもテクノロジーもわかっていなければならない、ということでしょう。

 江崎玲於奈(れおな)さん(ソニー社員時代の研究でノーベル物理学賞を受賞)が、当時のソニーを「秩序ある混沌」とうまい表現をされています。自由闊達で混沌としているけれど、目指すべき目標が明確で、企業理念に裏づけられているから、全体がおのずと律せられている、と。

――律するといえば、伊庭さんは法務の経験も長い。法務は事実(ファクト)をベースとしていますが、事実を探し出すという点では財務と共通していますか。

 まったく同じです。事実があって、その上に戦略や方向性を決めていくのですから。

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「トップ・マネジメントの教科書」CEOとCFO その新しい関係

グローバル経済の本格化によって、歴戦のビジネスパーソンの経験と勘は裏切られる可能性が高まった。トップマネジメントは、リスクを洗い出し、測定し、定量化し、それを踏まえて経営戦略を説明できなければいけない。その際、CEOはCFOの力を借りずしては考えられない。CFOには経営陣の中で論理的な判断のよりどころとなり、CEOを補完すると同時に、戦略志向やビジネスリテラシーも求められている。新しい時代のCEOとCFOの関係はどうあるべきかを求め、取材した。

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