京都のいろはがるたに「来年の事を言えば鬼が笑う」というのがある。地方によっては「カラスが笑う」や「天井のネズミが笑う」という表現もあるらしい。ここ数年、「ゆとり教育世代」がビジネス社会に進出してくるようになったが、まさか「鬼が笑う理由」くらいは学んできているだろう。

 鬼やカラスに笑われようとも、企業には取り組まなければならない仕事がある。それが決算短信の表紙(ハイライト情報)の最下段に記載される「業績予想」だ。10年3月期の決算短信を発表する企業では、10年9月期(第2四半期)と、11年3月期(通期)の2本立ての予想が掲載される。

 今回は電機メーカー8社の決算データをもとに、業績予想の話を突破口にして、「各社の特徴」と「電機業界内の序列化」を行なえるかどうかにチャレンジしてみよう。

業績予想は、精度が試される
企業の「踏み絵」だ

 決算短信に掲載される「業績予想」とは、ミクロ経済レベルでの「来年の話」である。これをマクロ経済レベルで語るのが「経済成長見通し」だ。

 マスメディアなどでは、エコノミストや経済評論家などが語る「来年の話」が時々、記事として掲載される。語るのは結構なことなのだが、過去に公表した彼ら自身の見通しについてどれだけ的中したのか、という検証も行なうべきだろう。「言いっぱなし」ですむならば、「オレにも言わせろ」である。

 マスメディアでは日々膨大な情報が発信されるので、過去の発言については調べようがないところが、評論家諸氏にとっては都合がいい仕組みになっているようだ。

 そうした過去に語られた「経済成長見通し」を検証するのは難しいが、ミクロ経済レベルでの「業績予想」については過年度の決算短信に証拠が残っている。企業にとっては予測の精度が試される、まさに「踏み絵」だ。

 実は、第36回コラム(益出し操作編)で説明した予定配賦率の設定や、決算短信に掲載する「業績予想」について、入社2年目あたりの社員に草案を作らせている企業がある。そのほうが「しがらみがなくて」意外と精度の高い数値が得られるのだとか。

 もちろん、そのようなことをしているとは、対外的に公表できない。最重要の企業秘密である。

売上高の誤差率わずか0.2%!
不況でも揺るがないシャープの精度

 では、その業績予想について検証してみよう。09年3月期決算短信に掲載された「10年3月期の業績予想」と「10年3月期の実績」を並べて、両者の「誤差率」を求めたものが〔図表 1〕である。