顧客優先が生んだ
新たなビジネスモデル

 一般に、不動産売買に伴う仲介手数料は「成約価格の3%+6万円」といわれる。しかしこれは、法律で定められた上限であって、それ以下であれば仲介会社が自由に手数料額を決定することが可能だ。そこで同社は、顧客に提供する各種サポートの内容や成約価格に応じて仲介手数料額が変動する料金体系を設定した。

「実際には、法定上限を下回るケースも多々あります。お客さまからは『手数料が安く済んで良かった』『丁寧に物件調査をしてくれた』とお褒めの言葉を頂いています」と望月部長はその手応えを語る。

 エージェント制や変動型の仲介手数料体系は、顧客にとってメリットは大きい。しかし、事業としての収益面では不利に働くはずだ。それなのになぜ、同社では実現できるのか。

個人がマンションを売り出すことができる不動産売買プラットフォーム「おうちダイレクト」

 まず、大手不動産会社のように多店舗展開していないため、店舗や人員のコストを必要最小限に抑えることができる。そして、得意のテクノロジーを駆使して集客や内部の業務を効率化している。これらの強みが、画期的なサービスの実現につながっているのだ。

 昨年11月にヤフーと共同で始めた、中古マンション取引サイト「おうちダイレクト」も情報技術を活用した新たなサービスの一つだ。個人が仲介会社に依頼することなく、自分のマンションの価値を知ったり、自分で決めた価格で自由にマンションを売り出せるプラットフォームとして、注目を集めている。従来の不動産取引の商習慣に縛られない、自由な取引の場が生まれつつある。

ソニーのDNAで
中古住宅市場を活性化

 同社では、リノベーションや賃貸管理など、売買仲介以外のサービスにも力を入れる。

 リノベーションサービスでは、相談の段階から施工に至るまで一貫して建築士などの有資格者が担当し、高い技術力によるリノベーションを提供している。賃貸管理サービスでは、管理専門のエージェントがオーナーの立場で物件の管理や入居者募集をサポートし、オーナーの収益最大化を図る。

 さらに同社は、一棟マンションやビル、土地を所有するような富裕層に対する資産コンサルティングにも力を入れ始めた。一棟物件については、オープンにしない形での取引が多い中、居住用不動産と同様に業者間の物件情報ネットワーク「レインズ」を積極的に活用して、透明性のある取引の可能性を拡大させている。一方で、顧客にとってのベストであるなら「売らない」という選択肢を提案することもあるという。老朽化した一棟物件の再生による高収益化や、広大な土地への収益物件の建設や駐車場としての有効活用など、さまざまな提案で顧客の収益の最大化を図っている。それは、顧客にとっての合理性、メリットの追求において、妥協はないことの表れでもある。

 創業から1年半が経過し、業界内での存在感が増してきた。今後の展望について、青柳執行役員は次のように語った。

「世の中に存在する非効率や不合理に着目して、ベストなソリューションを提供してきたのがソニーのDNAです。現在日本では、少子高齢化によって今後住宅需要が減り、空き家がますます増えていくことが予想されており、中古住宅の利活用が国を挙げての大きな課題となっています。このような課題を解決し、中古住宅流通の活性化につながる方策を示していきたいと思います」

「ソニー」の名前に抱いていた「ワクワク感」がここにある。