イノベーション経営を推進するうえでCFOの禁句は「その事業が儲かるのか証明せよ」だ。リスク・テイクのないところに、イノベーションは生まれない。合理的な判断をしつつも、許容範囲内のリスクでアクセルを踏む支援がCFOには求められる。

イノベーションを阻む
ROIの落とし穴

イノベーション経営を支えるCFOの役割アーサー・D・リトル・ジャパン
パートナー
森 洋之進

YONOSHIN MORI
東北大学工学部機械工学修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校経営学修士(MBA)。大手電機メーカーなどを経て、アーサー・D・リトルに参画。製造業を中心に事業、技術、知的財産の戦略立案、経営革新支援などを手がける。経済産業省「産業構造審議会知的財産政策部会経営・情報開示小委員会」委員などを歴任。

 昨今、日本でも経営指標としてのROE(自己資本利益率)があらためて注目されている。

 高度経済成長期以降の歴史を振り返ってみると、日本企業のROEは低下傾向が続いていることは間違いない。資本市場から資金調達するためには、ROEを高めることがたしかに大事だが、それが目的化すると大きな落とし穴に陥ることになる。

 ROEを含むROI(投資収益率)は、投資家などが外部から、ある会社や事業プロジェクトの特定期間における収益性を見定めるにはわかりやすい指標であり、そうした目的で使うことはもちろん否定しない。

 しかし、ROIは一定の条件下で結果を見る“静的な”指標にすぎず、日々イノベーションに携わっている“動的な”現場から見れば本質をとらえていない指標にもなりうる。 たとえば、ROIで判断すれば、新しい工場や倉庫を建てる際、既存施設の増設による投下資本の極小化(分母を小さくすること)に傾注しがちだか、真のイノベーション活動(需要創造活動)を企図すると、初めから最新鋭の工場を建設し、拡大された需要にいつでも対応できるようにしておく、という考え方ができる。ただし、これは一見するとROIが著しく低く見える。

 経営者がROIだけを投資判断の拠り所にした場合、ゴーサインを得るために、現場はできるだけ小さな投資、あるいは既存事業に近い分野への投資でリターンを出そうとするだろう。結果、無意識的に縮み志向に陥り、イノベーションや大きな成長が起こらない。